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傲慢なお嬢様は、叱られると嬉しそうにする ~偉そうなくせに、僕がいないとダメらしい~  作者: 光


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第12話 フタエといられる、なんでもない日々

 新居に越してきてから早一ヶ月、梅雨真っ只中。あれからというもの、アステリアは外に一歩も出ようとせず、家に引きこもり続けていました。


 ぼくの生活も大きくは変わりません。通学に時間がかかるようになりましたが、相変わらず居心地の悪い高校にも通い続けています。

 いくら危険だと主張しても、ぼくが学校に通うのはアステリアにとって正しい行いだから、決して曲げてはくれないのです。


 防犯設備は、いくらか強化しました。

 動体検知が防犯の要となります。お屋敷の半径2km以内に侵入する動体があると、直ちにぼくの元にアラートと複数の画像が送信されてきます。野生動物も生息する森なので当然誤検知はありますが、それ即ち正常稼働中ということ。一長一短です。

 そうして侵入者を検知した後、承認を送れば、国家権力と民間警備会社が大挙してやってくるという手筈になっています。


 ぼくもぼくなりに全くの無策ではないのです。


 だというのに、アステリアと来たら、緊張感の欠片もありません。


「フタエーお腹すいたー」

「はいただいま」


「フタエーマリカーしよー」

「はいただいま」


「フタエー服の中に虫が入っちゃったーとってー」

「はいただ……え?」


 フタエーフタエーフタエー…………便利屋さんで雑用係の使用人は毎日大忙しです。


 いつか見た優麗で儚げな美少女は、日常ともなればわがままな子供のようなのですから、たまりません。

 確かに、素顔を見せてくれとお願いはしました。遠慮などなく内面をあけすけにしてくれているのでしょう。けれども、だらけすぎです。


 あまりにも目に余るので、直接指摘したことがあります。ちょうどソファーに寝転がり、惰眠を貪っている最中でした。……いつものことですが。


「そうやって食っちゃ寝しているだけではなく、たまには生産的な活動でもされたらいかがですか」

「いいんだよぉわたしは。どうせなにをしても無意味だしな」

「腑抜けちゃってまあ情けない。ろくな大人になりませんよ」

「大人になんてならないし」

「またそんなことをおっしゃって……」


 ふと床に落ちている雑誌が目に入ります。アステリアが時折読んでいる美術雑誌でした。

 

「絵などお描きになられたらよろしいのでは?」

「んーっ、絵ね、絵、あれね、見るのは好きだけど、描くと白紙ができあがるから」


 それは描くとはいいません。前衛芸術にしても程があります。


「フタエが描いたらいいんじゃないか?」

「は?」


 またぞろおかしなことを言い出しました。


「では謹んで……って、ぼくが描いたら意味ないでしょう」

「いや、描くと思うぞ、フタエは」

「またおかしなことを……あのですね、そちらが意欲的になるために提案したのに、どうしてぼくが描くことになるんですか」


 アステリアは悪びれもせずに言います。


「行間を読んで」

「読めませんよ!」


 叫んで拒んだのはいいものの、使用人の立場とは弱い、あまりにも弱いもので、この先の展開などわざわざ語るまでもありません。

 契約とは束縛です。命令とは、拘束力そのものです。

 

 なので、せめて。


「じゃあご主人を描きます。モデルになってください」


 アステリアは嫌そうな顔をします。というか、恥ずかしそうです。


「こうなるだろうなとは思ってたけど……写真とかじゃダメか?」

「ダメです。なに甘っちょろいこと言ってるんですか」

「フタエのそういうサディスティックなところも嫌いじゃないけど、抵抗できないとなると犯罪的な気分になるな」


 なにを言っているんですかこの人は。


 前の家でもそうでしたが、なぜかこの家にもイーゼルとキャンバスは備え付けです。絵の具や用紙もふんだんに用意されています。いつ頃運んできたのかは存じ上げませんが、主の絵画への興味が如実に感じられます。だというのにいつまでも放置するのは……準備だけして後回しにしてしまう気持ちもわからないでもありませんが。

 はなから使用人に描かせるつもりで用意していたのかもしれませんけどね。アステリアはそういうことをする。


 だってそのアステリアと来たら妙にやる気で。


「ど、どれくらい脱げばいいんだ」などと宣ってやがります。

「全部」

「全部!? わ、わいせつだぁ」


 慌てふためいてアステリアは顔を真っ赤に染めていました。


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