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紅楼夢  作者: 翡翠
第十六回 賈元春 才(さい)もて鳳藻宮(ほうそうきゅう)に選(せん)じ 秦鯨卿 夭(わか)くして黄泉路(よみじ)に逝(ゆ)く
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第十六回 18

「まぁ、青天が家の中にあらわれたようなことをおっしゃいますこと」

 趙ばあやも笑いがとまらず、念仏を一遍(いっぺん)唱えてから言った。

「『内人(つま)』だの『外人(たにん)』だの、うちの若さまに限(かぎ)ってそんなけしからんことはありませんよ」

 ゆっくりと趙ばあやはため息をつく。

「……ただ、気が弱くて、情け深くていらっしゃるから、誰かに頼まれると断り切れないだけなのです」

 熙鳳は笑って言った。

「そうでしょうとも! どこぞの『内人(つま)』がいるときにはあの方はずいぶん優しくなるのでしょうね。私たちみたいなただの女にはあんなに意地っ張りなくせに」

 趙ばあやも笑った。

「奶奶(わかおくさま)がそこまでおっしゃるとは。おかげで私もすっかり愉快になりました。これからは奶奶(わかおくさま)が取りしきってくださるのです。この婆(ばば)には何の心配もございません」

 趙ばあやは盃をかかげた。

「嬉しいついでにもう一杯いただくことにいたしましょう」


 賈璉はきまりが悪そうに、「ばかなことを」とだけ言い、頬を赤く染めた。

「早く食べてしまわないと。珍さんのところに行って、話し合わないといけないんだ!」

 はっとして熙鳳は言った。

「それは……遅れるわけにはいきませんわね。ところで先ほど老爺(だんな)さまはあなたをお呼びになって、何をお言いつけになったのですか?」

 短く賈璉が言う。

「省親(しょうしん)のことさ」

 熙鳳はあわてて言った。

「省親(しょうしん)のお許しが出たのですか?」

 賈璉は笑う。

「すっかり決まったわけじゃないが、まあ八分どおり大丈夫だろうね」

 熙鳳はにこやかに笑った。

「まぁ、今上陛下(きんじょうへいか)の御恩徳(ごおんとく)が分かりますわ。昔から講釈(こうしゃく)を聞いたり芝居を観たりしてきましたが、こんなことは一度だって耳にしなかったもの!」

 趙ばあやが口を挟んだ。

「まったくそのとおりでございますね。……私も老いぼれてしまったんでしょうかね。頭がぼんやりしてきましたよ。……こんな婆(ばば)だって『省親(しょうしん)、省親(しょうしん)』と大騒ぎしているのは知っております」

 趙ばあやはしばし言いよどむ。

「ですが……しかし……私にはかかわりのないことと気にも留めておりませんでしたが……」

 熙鳳は微笑んだ。

「どうぞ娘(わたし)にお話しになって」

「省親とはいったい何でございましょう?」

 賈璉はうつむきながら笑いをこらえている。熙鳳はそれをきっと睨(ね)めつけた。


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