第十六回 14
熙鳳は平児に尋ねる。
「薛のおばさまはどんなご用で香菱を寄こされたの?」
平児は笑いながら答えた。
「香菱さんなんて来ていませんわ。あの人のお名前を借りてちょっと嘘をついたのです」
熙鳳は眉を顰める。
「どういうこと?」
平児は再び笑みを漏らす。
「奶奶、お聞きになって。旺児の奥さんときたらいよいよ物事の分別すらつかなくなってしまったようなのです」
「何かあったの?」
「奶奶が利足を取っていらっしゃるあの金子のことです」
熙鳳の顔色がさっと変わる。
「届けるならもっと早くでも、いっそ遅くでもいいものを、よりによって二の若さまがお帰りになっているちょうど今、あの女は金子を持ってきたんですのよ」
「それで……」
「たまたま私が表の間で応対したからよかったようなものの、そうでなければあの女はそのままこちらにやってきて、奶奶に報せてしまっていたことでしょう。もし二の若さまがどの金の利足かとお尋ねになったら、奶奶も二の若さまにそのまま伝えずにいられないでしょうから。
二の若さまはあのとおりのご気性です。煮えたぎる油のなかに落ちた金ですら拾い上げようとする人ですもの。
奶奶があんなへそくりをお持ちだと知ったら一も二もなく使おうとしてしまうでしょう。ですから私はその金子をすぐに受け取り、あの女にもきっちり言っておきました。あいにく奶奶がその声を聞かれて、誰なのかとお尋ねになったものですから、とっさに香菱さんがいらしたと嘘をついたのです」
熙鳳はそれを聞くと笑いながら言った。
「おかしいと思ったのよ。薛のおばさまは、二の若さまが帰ってきたことをご存じなのに、どうしてまた房の女を遣わしてきたのかって」
熙鳳は平児の額を小突いた。
「こそこそと……小憎らしい子!」
熙鳳はため息をついた。
「少し疲れちゃったわ。お茶を煎れてちょうだい」
平児はうなずくと房を出ていった。
茶を煎れていたそのあわい、平児は窓から花弁の散りばめられた袖を見とめると、たしなめるように言った。
「まだそこにいたの? 早くお帰りなさい」




