第十六回 13
そんなことを話しているうちに、外で誰かが話しているのが聞こえた。
「誰?」
熙鳳がつぶやくように聞いた。
豊児はおずおずと出て行こうとしたが、平児がそれを制した。
「私が行くわ」
「奶奶」
平児は揺るぎのない声で言った。
「薛の太太が香菱さんを遣わして、私にお尋ねがあるとのことでした」
「で?」
「もうお答えして帰っていただきました」
賈璉は笑いながら言った。
「ああ、あの子か! ぼくもさっき薛のおばさまのところにご挨拶にうかがったとき、思いがけず若い女の子とばったり会ったよ。ずいぶん器量のよい子だったなぁ。話のついでにおばさまに尋ねてみたら、その子がかの薛の阿呆が都で買ったという娘、香菱だと言うじゃないか。近ごろ開臉したからかな、顔がつるりとし、髪もすっかり整い、見違えるようになった。まったくあの阿呆にはもったいないよ」
「口の減らないこと……」
熙鳳は聞こえないように言うと、
「あら。蘇州や杭州を旅されて、少しは“世の中”を見てこられたはずなのにまったくお変わりないのね。腹いっぱいなのに人の物まで欲しがる性質なんだから。あの娘が気に入ったのならわけないわ。私が平児と取りかえてきてあげる。あの薛の兄さんも『椀のなかのものを食べながら、鍋のなかを見る』男だものね。
あれで薛のおばさまとずいぶん揉めたのよ。だって器量がいいなんてことを置いておくとしても、他の娘たちとは全く違うんだから。その人柄や立ち振る舞いも、人当たりがよくて落ち着いているんですもの。そこらの姑娘だって及ばないでしょう。だからこそおばさまも宴を設けて、たいそう客を招き、きちんと妾にしてあげたのよ」
熙鳳はため息をついた。
「でも、あの薛の兄さんときたら、半月もしないうちに香菱に気をとめなくなった。まるで馬小屋にさっ、と風が通り抜けたかのよう。私はあの子がかわいそうでたまらない……」
賈璉は黙りこんでじっとうつむいている。
熙鳳の話が終わらぬ間に、二の門の小者が呼ばわって言った。
「老爺さまが大書房で璉の二の若君をお待ちです」
「やれやれ。行かなくっちゃな」
賈璉はゆらりと立ち上がると衣服を整え、そそくさと出ていった。




