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紅楼夢  作者: 翡翠
第十六回 賈元春 才(さい)もて鳳藻宮(ほうそうきゅう)に選(せん)じ 秦鯨卿 夭(わか)くして黄泉路(よみじ)に逝(ゆ)く
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第十六回 12

「『山(やま)に坐(ざ)して虎(とら)の闘(たたか)うを観(み)る』ような輩(やから)がいたかと思えば、『剣(つるぎ)を借(か)りて人(ひと)を殺(ころ)す』ような気(き)を抜(ぬ)けない連中(れんちゅう)がいて、『風を引きて火を吹(ふ)く』ような人でなしがいたかと思えば、『乾(かわ)きたる岸に站(た)つ』ように知らぬ顔を決めこむ者(もの)もいる。あげくには『油瓶(あぶらびん)を倒(たお)しても扶(たす)けない』ありさま。

 私はまだ若(わか)いもの。年季(ねんき)もなければ、みんなを抑(おさ)えるだけの威(い)もない。連中(れんちゅう)の目には私なんて映(うつ)っていないわ」

 熙鳳はやおら賈璉に目を向けたが、賈璉は手遊(てあそ)びをしながら虚空(こくう)を見つめていた。

「平児姐姐(へいじおねえさま)」

 豊児が平児にささやいた。

「璉の二の若君(わかぎみ)はなんて薄情(はくじょう)な方なんでしょう? 奶奶(わかおくさま)は昼夜分(ちゅうやわ)かたず己(おの)が業(わざ)を果(は)たされてきたというのに」

 平児はそっと豊児の尻(しり)をつねった。豊児の顔がゆがむ。

「めったなことを言うもんじゃないわ。二の若君(わかぎみ)のところの茜雪がどうなったが知っている?」

 平児が小声(こごえ)で問うと、豊児は首(くび)を横(よこ)に振(ふ)った。

「どうやらここから追(お)い出(だ)されるとか、もうすぐ郷里(きょうり)に帰(かえ)されるとか、もっぱらの噂(うわさ)よ」

「本当(ほんとう)ですか?」豊児は驚(おどろ)く。「どうしてあの方が追い出されることに……」

「そういうところよ」

 平児はぴしゃりと言った。

「あの人のようになりたくなければ、そのおしゃべりな口を閉(と)じることね」

 豊児は目を伏せながら口をつぐんだ。

「そうそう。聞いて。おかしなことがあったのよ」

 熙鳳が賈璉に切り出した。

「寧府で蓉ちゃんの媳婦(よめ)が亡くなったでしょう? すると珍の大哥哥(おにいさま)がやって来られてね。太太(おくさま)の前で跪(ひざまず)いて、『奶奶(わかおくさま)をお借(か)りしたい。ぜひ手伝(てつだ)ってほしい』と頼みこまれたのよ。

 私は何度もお断りしたんだけれど、珍の大哥哥(おにいさま)だけでなく、太太(おくさま)もそれを許してくださらないものだから……。

 そしたらもう言わんこっちゃないわ。私のせいで寧府は上から下まで大騒(おおさわ)ぎ。もう滅茶苦茶(めちゃくちゃ)よ。珍の大哥哥(おにいさま)も今ではきっと後悔されているに違いないわ。

 あなたが帰ってこられて本当によかった。珍の大哥哥(おにいさま)にうまくお伝えしておいて。

『あれはまだ若(わか)くて世間(せけん)を知らないんです。大爺(あなた)があれに任(まか)せたのがそもそもの間違(まちが)いなんです』ってね」


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