第十六回 11
平児や他の丫鬟たちも賈璉の長旅の労をねぎらい、拝礼し終えると、茶を差し出した。
「私が離れているあいだ家のことで何かなかったかな」
そう賈璉は問い、下人の報せをとくと聞いていたが、
豊児がおずおずと進み出、
「奶奶は璉の二爺さまの留守中、栄府の家事を捌かれたばかりか、寧府のことでも東奔西走のご尽力……。……大変……お疲れの……ご様子で……」
と喘ぐように、つぶやくように伝えると、賈璉はたった一言、
「多謝」
と言った。
熙鳳はそれを聞くと、さっと顔をあげ、まくしたてるように言った。
「私は大したことをしていませんよ。私ったら、世間知らずで、口下手で気性もまっすぐにできているでしょう? 棒っきれを渡されても針と言われれば信じてしまうくらいなんだもの。
私が底なしのお人好しなのは知っているでしょう? ちょっと世辞を言われただけで、すぐに情けをかけてしまうから。そのくせ大きなことを成し遂げたことはなし。胆力だって小さいわ。
……少しでも太太のお具合が悪くなると、すぐに眠れなくなるわ。私に家宰なんて務まらないもの。何度もお断りしたわ。他の方をあててくださいって。でも、太太は許してくださらないの。それどころか、それを申し上げるたびに、
『あなたが楽をしたいだけでしょう? そう言うのなら、もっと家のことを習いなさい。もっと覚えなさい。』
そうおっしゃるのよ。私はいつだって冷や汗まじりにやっているっていうのに。一言だって余計なことは言えない。何一つ勝手はできないんだから」
熙鳳は賈璉を見やり、続けた。
「あなたもよくご存じでしょう? この家をしきっている奶奶連中ときたら一筋縄ではいかないんだから。ほんの少しでも誤りがあったら笑いものにされる。わずかでも偏りがあれば恨み言を述べる。俚言にも言うでしょう?」




