第十六回 8
「若君! 若君!」
李貴は慌てながら宝玉の房に入ってきた。
「なんだい。騒騒しい」
宝玉は寝台に臥せたまま気だるそうに言う。
「璉の二の若君が帰ってこられるそうですよ」
「本当?」
宝玉は大声を出した。
「ええ。しかも明日」
宝玉はゆっくりと身を起こした。
「林妹妹は?」
「さあ、どうだったかな?」
李貴は考えこんだ。
「そんな! そこが一番肝心なんだよ」
「そう言われてもですね……」
李貴は言いよどむ。
「あ、そうだ」
思い出したように李貴が言った。
「林の姑娘も一緒ですよ。そうだ。そうだった」
宝玉は満面の笑みを浮かべたが、李貴は話すことに夢中で気づかない。
「なぜ急に思い出したのかといえばですね、賈雨村どのも都にのぼって陛下に拝謁されるらしいのです。これは王子騰さまがしきりに推薦されたかららしいんですがね。たまたま京官に欠員が出てそれを補うための任官となったらしいのです」
李貴は炕に腰かけた。
「ほら、賈雨村どのといえば、璉の二の若君とは同族の兄弟でございましょう。林の姑娘は雨村どのとは師弟です。だから道中をともにされたのでしょう」
李貴は宝玉をちらりと見やった。
「若君、聞いておられますか」
「……あ、ああ。聞いているよ」
ため息をつきながら李貴は言った。
「本当はこれほど早く帰ってこられるおつもりじゃなかったそうですよ。林の老爺さまが祖墳に葬られ、諸事片付いてから、都に向けて発たれたそうなのですが、何もなければもともとお帰りは来月の算段だったそうです。ですが、そこでもって元春姐姐の吉報があったでしょう? これは大変と、昼夜分かたず急がれたそうですよ」
「……無事だったのかい?」
宝玉がぼそりと言った。
「へ?」
「林妹妹には何事もなかったのかい?」
李貴はさも当たり前のように言った。
「へえ、それはそれは……。何かあったとは聞いておりませんから、きっとご無事だったのでしょう」
「それならいいんだ」
宝玉はにこやかに笑った。




