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紅楼夢  作者: 翡翠
第十六回 賈元春 才(さい)もて鳳藻宮(ほうそうきゅう)に選(せん)じ 秦鯨卿 夭(わか)くして黄泉路(よみじ)に逝(ゆ)く
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第十六回 5

 賈母(おばあさま)は頼大に手招(てまね)きする。

「さあ、おいで。その吉報(きっぽう)とやらを早(はや)く聞(き)かせておくれ」

 頼大は口ごもりながら言った。

「正直(しょうじき)私(わたし)たちは臨敬門(りんけいもん)の外(そと)で控(ひか)えておりましたので、中の様子(ようす)はまったく分かりませんでした」

 賈母(おばあさま)をはじめ、周(まわ)りの者(もの)たちは固唾(かたず)を呑(の)んで頼大の次の言葉(ことば)を待(ま)った。

「……しばらくして夏太監(かたいかん)さまがお出ましになって吉報(きっぽう)を伝(つた)えてくださったのです」

「回(まわ)りくどい言(い)い方(かた)をしないでちょうだい」

 薛のおばさまが言った。王夫人が目でそれを制(せい)す。

「私も……早(はや)く……知(し)りたいわ」

 王夫人は言った。頼大は咳払(せきばら)いをする。

「夏太監(かたいかん)さまはこうおっしゃいました。『大小姐(だいしょうしゃ)さまが鳳藻宮尚書(ほうそうきゅうしょうしょ)に昇(のぼ)られ、……賢徳妃に封(ほう)じられた』と」

 王夫人が小(ちい)さな声(こえ)でつぶやく。

「……元春が」

 女たちはみな色(いろ)めきたち、喜(よろこ)びは顔(かお)いっぱいにあふれた。

「それで……」

 賈母(おばあさま)も笑顔(えがお)をたたえながら言った。

「何かお言いつけはなかったかい?」

「え、ええ」

 頼大は少(すこ)しうろたえながら言った。

「そのすぐ後(あと)に二の老爺(だんな)さまが戻(もど)ってこられ、同じことをおっしゃいました。老爺(だんな)さまはすでに東宮(とうぐう)へ向(む)かわれております。老太太(おばあさま)にも、太太(おくさま)たちをお連(つ)れして、謝恩(しゃおん)に参(まい)られるように、とのことでした」

 そこで一同はそれぞれの品級(ひんきゅう)にしたがって、礼装(れいそう)を整(ととの)えた。賈母(おばあさま)は邢夫人、王夫人、尤氏を連(つ)れ、四挺(よんてい)の大轎(おおかご)で参内(さんだい)した。

 賈赦と賈珍も朝服(ちょうふく)に着替(きが)え、賈蓉と賈薔を連(つ)れて、賈母(おばあさま)の大轎(おおかご)にうやうやしくつき従(したが)った。

 こうして寧栄(ねいえい)の内外(ないがい)、上下(じょうげ)を問(と)わず、誰もが躍(おど)りあがって喜(よろこ)び、その面(おもて)はどれも晴(は)れがましく、寄り合って笑(わら)いあう声(こえ)は鼎(かなえ)が沸(わ)き立つように絶(た)えることもなかった。


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