↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅楼夢  作者: 翡翠
第十六回 賈元春 才(さい)もて鳳藻宮(ほうそうきゅう)に選(せん)じ 秦鯨卿 夭(わか)くして黄泉路(よみじ)に逝(ゆ)く
316/333

第十六回 2

 結納品(ゆいのうひん)が籠(こ)められていた蔵(くら)はがらんとしていた。

桐(きり)の箪笥(たんす)も、朱塗(しゅぬ)りの匣(はこ)も、反物(たんもの)、酒瓶(しゅびん)、腕輪(うでわ)の類(たぐい)にいたるまで、守備(しゅび)の家から送(おく)られた一切(いっさい)が一日(ひとひ)のうちに消(き)えていた。

あてどもなく金哥は蔵(くら)のなかを探(さが)した。這(は)うように。何も見落(みお)とさぬように。結納品(ゆいのうひん)の痕跡(こんせき)が残(のこ)っていないだろうかと。

薄暗(うすくら)がりのなか、右手(みぎて)を手繰(たぐ)るように動(うご)かす。爪(つめ)の中(なか)に塵(ちり)や埃(ほこり)が入りこんでくる。

指先(ゆびさき)に何かが触(ふ)れた。金哥はそれをしっかとつかむ。

金哥は天井(てんじょう)を仰(あお)いだ。梁(はり)の奥(おく)から雪がひとひら下(お)りてきて、はらりと舞(ま)った。

 その翌朝(よくあさ)、蔵(くら)は真(ま)っ白(しろ)に化粧(けわい)して、痛(いた)むほどの寒(さむ)さが張家を包(つつ)んでいた。金哥が己(おのれ)の房(へや)にも、厨(くりや)にもいないのに気づいた人々は、一族(いちぞく)をあげて金哥を探(さが)した。

裏(うら)の山(やま)や隣家(りんか)まで探(さが)したが、巳(み)の刻(こく)になっても見つからない。くたびれはてた一人の家人(けにん)が蔵(くら)の中(なか)に入ると、一番太(いちばんふと)い梁(はり)に麻縄(あさなわ)が吊(つ)るされていた。その麻縄(あさなわ)に括(くく)られるようにして金哥が静(しず)かに揺(ゆ)れていた。

雪(ゆき)はすでにやんでいた。澄(す)み切(き)った青天(せいてん)が蔵(くら)を覆(おお)う雪(ゆき)を少(すこ)しずつ溶(と)かし始(はじ)めていた。

 張家は愛娘(まなむすめ)の死(し)をどうにか隠(かく)そうとした。だが、新たな婚姻(こんいん)を控(ひか)えている以上(いじょう)、隠(かく)しおおせるはずもない。やがて新(あら)たな婚約者(こんやくしゃ)の李の若君(わかぎみ)にも守備(しゅび)の家(いえ)にも、知られることとなった。

 それからしばらくして、元(もと)の婚約者(こんやくしゃ)である守備(しゅび)の息子(むすこ)の体(からだ)が名もなき川の下流(かりゅう)に浮(う)かんだが、熙鳳はその顛末(てんまつ)を知らなかった。王夫人はもとよりそんな些事(さじ)を知ることはない。ただ手元(てもと)に三千両だけが残(のこ)ったのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。