第十六回 2
結納品が籠められていた蔵はがらんとしていた。
桐の箪笥も、朱塗りの匣も、反物、酒瓶、腕輪の類にいたるまで、守備の家から送られた一切が一日のうちに消えていた。
あてどもなく金哥は蔵のなかを探した。這うように。何も見落とさぬように。結納品の痕跡が残っていないだろうかと。
薄暗がりのなか、右手を手繰るように動かす。爪の中に塵や埃が入りこんでくる。
指先に何かが触れた。金哥はそれをしっかとつかむ。
金哥は天井を仰いだ。梁の奥から雪がひとひら下りてきて、はらりと舞った。
その翌朝、蔵は真っ白に化粧して、痛むほどの寒さが張家を包んでいた。金哥が己の房にも、厨にもいないのに気づいた人々は、一族をあげて金哥を探した。
裏の山や隣家まで探したが、巳の刻になっても見つからない。くたびれはてた一人の家人が蔵の中に入ると、一番太い梁に麻縄が吊るされていた。その麻縄に括られるようにして金哥が静かに揺れていた。
雪はすでにやんでいた。澄み切った青天が蔵を覆う雪を少しずつ溶かし始めていた。
張家は愛娘の死をどうにか隠そうとした。だが、新たな婚姻を控えている以上、隠しおおせるはずもない。やがて新たな婚約者の李の若君にも守備の家にも、知られることとなった。
それからしばらくして、元の婚約者である守備の息子の体が名もなき川の下流に浮かんだが、熙鳳はその顛末を知らなかった。王夫人はもとよりそんな些事を知ることはない。ただ手元に三千両だけが残ったのである。




