↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅楼夢  作者: 翡翠
第十六回 賈元春 才(さい)もて鳳藻宮(ほうそうきゅう)に選(せん)じ 秦鯨卿 夭(わか)くして黄泉路(よみじ)に逝(ゆ)く
315/333

第十六回 1

都(みやこ)の上空(じょうくう)には黒雲(こくうん)がたちこめていた。山嶺(さんれい)から吹(ふ)き降(お)ろす疾風(はやて)は、にわかに麓(ふもと)へ降(お)り立(た)ち、雪(ゆき)を呼(よ)びこむ。遊廊(ゆうろう)を進(すす)む一人の下人(めしつかい)の頭(かぶり)は白(しろ)く染(そ)まっていた。

「二の若君(わかぎみ)、二の若君(わかぎみ)!」

 叫(さけ)ぶ声(こえ)に応(こた)えるように宝玉が顔(かお)を出(だ)す。

「外書房(がいしょぼう)の支度(したく)が整(ととの)いましたぜ」

 宝玉は微笑(ほほえ)んだ。

「良かった。これで鯨卿(げいけい)と夜(よる)も書(しょ)を読(よ)むことができるよ。早く鯨卿に知(し)らせないと!」


「二(に)の叔父(おじ)さまから外書房(がいしょぼう)が出来上(できあ)がったと仰(おお)せだ。おそらくは一緒(いっしょ)に夜学(やがく)に勤(いそ)しもうとの申(もう)し出(で)だろう。ありがたいことだ」

 秦業は秦鐘に含(ふく)めるように伝(つた)えた。

「……だが、おまえのこの様子(ようす)では夜学(やがく)などままならぬな」

 秦鐘は咳(せ)きこみながら涙(なみだ)ぐんだ。

「おまえは体(からだ)が弱(よわ)いから……」

 水月庵(すいげつあん)から戻(もど)ってからというもの、秦鐘は病床(びょうしょう)に臥(ふ)し、食(しょく)もすすまず、やせ衰(おとろ)えてゆくばかりであった。

「ごめんなさい、父上(ちちうえ)……」

 そう言(い)われては、秦業もただ首を横(よこ)に振(ふ)るほかない。

 だが、秦業は知らなかった、自身の息子(むすこ)が水月庵(すいげつあん)で寒(さむ)さに凍(こご)えながら、幾度(いくど)も睦(むつ)みあっていたことを。

 秦鐘は戸口(とぐち)を見つめた。

「外(そと)は吹雪(ふぶき)だ。もう寝(ね)なさい」

 秦鐘はそっと目を閉(と)じる。風(かぜ)の吼(ほ)える音(ね)だけが頭(あたま)を打(う)ちつけるように響(ひび)いた。


 舞(ま)いしきる風花(かざはな)のなかに、装(よそお)いを正(ただ)した一行(いっこう)が進(すす)んでいた。一行はある邸(やしき)の前で歩(あゆ)みを止める。

 かの守備(しゅび)の家からは猫一匹(ねこいっぴき)顔を出す気配(けはい)がなかった。張家の家人(けらい)はおそるおそる門に近づくと、

「張家より遣(つか)いに参(まい)りました」

 と震(ふる)える声(こえ)で叫(さけ)んだ。みぞれ交(ま)じりになった雪はやがて霰(あられ)に変(か)わる。

 ようやく一つの人影(ひとかげ)が守備の邸(やしき)から現(あらわ)れた。だが絶(た)え間(ま)ない霰(あられ)のためにその面(おもて)は見えなかった。

 結納品(ゆいのうひん)が、張家の従者(じゅうしゃ)によって運(はこ)ばれてくる。張家の家人(かじん)はおそるおそる顔をあげた。痩(や)せこけた老人(ろうじん)はたった一言、

「いいだろう。受(う)け取(と)っておいてやる」

 とつぶやいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。