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紅楼夢  作者: 翡翠
第十五回 王鳳姐(おうほうしゃ) 権(けん)を鉄檻寺(てっかんじ)に弄(ろう)し、秦鯨卿(しんげいけい)、趣(おもむき)を饅頭庵(まんとうあん)に得(う)。
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第十五回 17

 熙鳳は浄虚の話を聞いて笑った。

「なんだそんなことなの? 大した話じゃないわね」

 それを聞いて浄虚は身を乗(の)り出(だ)す。

「でもね、そもそも太太(おくさま)がこんなことには手を出さないの」

 老尼(ろうに)は慌(あわ)てて言った。

「太太(おくさま)のご関心(かんしん)があろうとなかろうと、奶奶(わかおくさま)さえよしと言ってくだされば……」

 熙鳳は笑って答えた。

「私は銀子(かね)がなくて困(こま)っているわけでもないし、そんなことを商(あきな)いにはしないわ」

 浄虚はそれを聞くと望(のぞ)みを絶(た)たれたように黙(だま)りこみ、しばらくしてからため息(いき)をついた。

「そうおっしゃるからには仕方(しかた)がございません。ただ、老尼(わたくし)が賈家(かけ)のために危(あや)ぶみますに……」

 不穏(ふおん)な言いように平児は柱(はしら)の陰(かげ)で眉(まゆ)を顰(ひそ)めた。

「張家は老尼(わたくし)がこちらにおうかがいに来たことを知っています。もし何もしていただけなければ、『お忙(いそが)しくて構(かま)っていただく暇(ひま)がない』とか『謝礼(しゃれい)の問題(もんだい)ではない』という道理(どうり)もわきまえずに、『あの賈府としたことが、この程度(ていど)のことですら解決(かいけつ)できないのか』という風聞(ふうぶん)が流(なが)れるのではないかと心に懸(かか)っております」

 熙鳳はそれを聞くと言った。

「はっきりおっしゃい!」

 浄虚はそっと目を伏(ふ)せた。

「老尼(わたくし)は賈府を、何より奶奶(わかおくさま)の御身(おんみ)を思うがゆえ……」

 ここで浄虚は口ごもり、

「……奶奶(わかおくさま)がお断(ことわ)りになるのもごもっともです。虎の尾を踏(ふ)むようなことを誰(たれ)であれしたくはないでしょう。これもまた人としての道理(どうり)にございます」

「ふん。あなたは私の性分(しょうぶん)を知(し)らないの? 私は昔から、地獄(じごく)だの因果応報(いんがおうほう)だのという話は少しも信(しん)じちゃいないの。どんなことでも私がやるといったらやるのよ」

 その瞬間(しゅんかん)、老尼(ろうに)がにやりと笑ったのを平児は見逃(みのが)さなかった。

「三千両を持ってこさせなさい。あちらのうっぷんは私が晴らしてあげるわ」

 老尼(ろうに)は喜(よろこ)びを隠(かく)しきれず慌(あわ)てて答(こた)えた。

「もちろん。もちろん。そのくらいのこと造作(ぞうさ)もありません」

 熙鳳は続けた。

「私はどこかの連中(れんちゅう)みたいに右から左へあくせく銀子(かね)もうけなんてしないわ。その三千両だって小者(こもの)のお駄賃(だちん)にするだけのこと。私は一文だって受け取る気はないわ」

熙鳳は老尼(ろうに)を見やりながら言った。

「勘違(かんちが)いしないでちょうだい。私は三万両だって用立(ようだ)てられるのよ」


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