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紅楼夢  作者: 翡翠
第十五回 王鳳姐(おうほうしゃ) 権(けん)を鉄檻寺(てっかんじ)に弄(ろう)し、秦鯨卿(しんげいけい)、趣(おもむき)を饅頭庵(まんとうあん)に得(う)。
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第十五回 15

「で、どんなことかしら」

 熙鳳は気(け)だるそうに言う。老尼(ろうに)は手をすり合わせながら、

「南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)!」

 と唱(とな)えた。そして滔(とう)々と話し始めた。

「少し長くなりますが、おおもとの話から始めさせてくださいませ。

私はそのころ長安県(ちょうあんけん)の善才庵(ぜんざいあん)の尼(あま)をしておりました。どちらかといえば付近(ふきん)は寂(さび)れておりましたが、一軒(いっけん)、金持(かねも)ちの檀家(だんか)がおり、それによってどうにか善才庵(ぜんざいあん)は永らえることができたのでございます。

まこと、水月庵(すいげつあん)における賈家のごとくにございました」

熙鳳は浄虚の顔も見ずに言った。

「下手(へた)な世辞(せじ)なら言わない方がいいわ。早く続けなさい」

 浄虚は手巾(てきん)で額(ひたい)の汗(あせ)を拭(ふ)きながらうなずいた。

「その張家に一人娘(ひとりむすめ)がおりまして幼名(ようみょう)を金哥(きんか)と申します。張家は毎年(まいとし)お参(まい)りに来ておりましたが、何という縁(えにし)でしょうか。ある年、長安府(ちょうあんふ)の府尹(ふいん)さまのご縁戚(えんせき)の李の若君(わかぎみ)と出会(であ)ってしまったのです」

「縁戚(えんせき)といってもいろいろとあるでしょう? どういうご関係(かんけい)なの?」

「小舅子(しょうきゅうし)にあたります」

「太太(おくさま)の弟(おとうと)ともあればむげにはできないわね」

「そうです。しかもそれはこの上ない僥倖(ぎょうこう)だったのです。李の若君(わかぎみ)は金哥(きんか)さまを見初(みそ)め、金哥(きんか)さまを娶(めと)りたいと、人を遣(つか)わされました」

 熙鳳はあくびまじりに言った。

「おめでたいことじゃない。何の支障(ししょう)があるの?」

 浄虚は身を乗(の)り出して言った。

「そこにございます。ところが、金哥(きんか)さまはすでに結納(ゆいのう)をすませておられたのです。それは元長安(もとちょうあん)の守備職(しゅびしょく)につかれていた方のご子息(しそく)でした。

 張家としてはありがたい話ではあるものの、婚約(こんやく)をなかったことにすればかの守備職(しゅびしょく)のお家(いえ)が承知(しょうち)されないだろうと思われ、すでに他家(たけ)と約(やく)があるとお返事(へんじ)をなさいました」


――たいした講釈師(こうしゃくし)だわ。

と平児は思う。平児は別の話を聞いていた。張家の醜聞(しゅうぶん)は海内(かいだい)に知(し)れ渡(わた)り、むろん都(みやこ)までも噂(うわさ)は届(とど)いていたのである。


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