第十五回 14
そう言われたとたん、智能の目は輝き、心は浮き立ち、足早にお茶を運んできた。
秦鐘は笑いながら言った・
「早くくれよ」
すかさず宝玉は大声で言った。
「ぼくにくれ!」
智能は口をすぼめて笑いながら言った。
「たかが一杯のお茶を取り合うなんて。私の手には蜜でも塗ってあるのかしら?」
宝玉は茶碗をひったくるようにして受け取り、茶を飲みほした。そして何か尋ねようとしたそのとき、智善がやってきて智能を呼んだ。
「姐姐、お茶請けを並べるのを手伝ってください」
にわかに仏殿はしんとして、やがて二人のもとへも茶と菓子を用意したので来るようにとの知らせがきた。
宝玉と秦鐘は少しのあいだ腰を下ろし、わずかに茶をすすっただけで、また外へ出て二人であたりをぶらつくのだった。
後日、栄府に戻ってから宝玉がことの次第を晴雯にこぼすと、晴雯は嘲るように笑いながらこう言った。
「阿呆が阿呆に惚れただけのこと。あなたが気に病むことはありませんわ。言うにことかいて『早くくれよ』だなんて。
もし言ったのがあなたでも、私はお茶を顔に浴びせたでしょう」
このころには婆娘や媳婦も三々五々休みに戻っており、残っているのは腹心の数名だけであった。
「平児姐姐、あなたもどうぞ先にお休みください」
浄虚は忠実な通房丫頭にうやうやしく言った。
平児は首をかしげ、熙鳳の命を待った。
「平児、せっかくの申し出だからお受けなさい」
平児はなおもためらっていたが、やがて立ち去った。
浄虚は平児が房に戻ったのを確かめるや、熙鳳にこう切り出した。
「実は一つお願いしたいことがございます。本来なら栄府におもむき、太太にお願いしなければならないことなのですが、その前に奶奶のお考えをお聞きしたいと思いまして」
――きっと何かあると思ったわ。
柱の陰に身を隠しながら平児は思った。あからさまに己を遠ざけた浄虚をいぶかしみ、その場を離れずにいたのである。




