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紅楼夢  作者: 翡翠
第十五回 王鳳姐(おうほうしゃ) 権(けん)を鉄檻寺(てっかんじ)に弄(ろう)し、秦鯨卿(しんげいけい)、趣(おもむき)を饅頭庵(まんとうあん)に得(う)。
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第十五回 11

 饅頭庵(まんとうあん)の山門(さんもん)までたどり着くと、庵主(あんしゅ)の浄虚(じょうきょ)が弟子(でし)の智善(ちぜん)と智能(ちのう)をともなって迎えに出てきていた。二人ともまだ若い尼僧(にそう)であり、白い僧服(そうふく)を身に着けていた。

「私が案内(あない)いたします」

 智能は深々と辞儀(じぎ)をして、熙鳳たちを浄室(じょうしつ)へと連(つ)れていく。

 熙鳳は後ろからまじまじと智能を眺(なが)めていたが、

「あんたずいぶん背(せい)が高くなったのね」

 智能はあわてて振(ふ)り返(かえ)る。手に持っていた灯明(とうみょう)が熙鳳の顔を照(て)らした。

「あら、ずいぶん器量(きりょう)もよくなっているじゃない」

「まあ、奶奶(わかおくさま)ったら」

「嘘(うそ)じゃないよ。鯨卿(げいけい)だってあんなに顔を赤くしているもの」

 宝玉が指さすと、秦鐘は慌(あわ)てて言う。

「そんな! 灯明(とうみょう)に照らされたから、そう見えるだけでしょう」

「ふうん」

 宝玉は意味(いみ)ありげに笑ってみせると、熙鳳たちとともに浄室(じょうしつ)に入り、みなで更衣(こうい)を済ませ、手を洗(あら)った。


「あんたたち師弟(してい)ったら、どうして近ごろ姿(すがた)を見せなかったのよ」

 茶を飲み一服(いっぷく)してしまうと、宝・秦のいないところで熙鳳は切り出した。浄虚(じょうきょ)は慌(あわ)てて答える。

「ここ数日は本当にその暇(いとま)がなかったのです」

「そのまえからずっとじゃないの」

浄虚は顔(かお)を伏(ふ)せた。

「まあ、いいわ。言い訳(わけ)を聞かせてごらんなさい」

「……胡(こ)の老爺(だんな)さまのお邸(やしき)で男の子がお生まれになりまして、あちらの太太(おくさま)から銀十両(ぎんじゅうりょう)のお納(おさ)めもあったものですから、どうにもお断(ことわ)りできず……」

 浄虚は熙鳳のようすをうかがった。熙鳳はただ自らの爪(つめ)を見ている。

「数人の師父(しふ)をお呼(よ)びして三日間ものあいだ『血盆経(けつぼんきょう)』を誦(ず)しておったのでございます。このようなありさまでしたから、ろくに鳳姐(ほうしゃ)のところにもおうかがいできなかったのでございます」

「胡(こ)という名に違(たが)わぬ胡塗(おろか)なふるまいね」

 熙鳳は吐(は)き捨(す)てた。

「産(さん)のときの血(ち)のどこが穢(けが)れているというの? よしんばそうだったとして、『血盆経(けつぼんきょう)』なんかでそれがおさまるわけがないでしょう」

 茶窯(ちゃがま)の煮(に)えたぎるふつふつという音だけが狭(せま)い房(へや)に響(ひび)く。

 熙鳳は笑(わら)った。

「余計(よけい)なことを言ったわね。ただ、私への挨拶を怠(おこた)ったからには夜通(よどお)し話に付き合ってもらうわよ」


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