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紅楼夢  作者: 翡翠
第十五回 王鳳姐(おうほうしゃ) 権(けん)を鉄檻寺(てっかんじ)に弄(ろう)し、秦鯨卿(しんげいけい)、趣(おもむき)を饅頭庵(まんとうあん)に得(う)。
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第十五回 8

 やがて車はゆるゆると歩みを始(はじ)め、畦道(あぜみち)を進んでいたときのことだった。

 向(む)こう側(がわ)から、「二番目(にばんめ)」が小さな弟を懐(ふところ)に抱(だ)き、何人かの少女(しょうじょ)らと笑いあいながら歩いてくるのが見えた。

 すれちがいざま、宝玉は飛(と)び降(お)りようかと思った。だがそれを皆が許(ゆる)すはずもない。甘(あま)い香(かお)りがにわかに漂(ただよ)って、消えた。

車は軽(かる)く、馬は速(はや)い。

 少女らはだんだんと小さくなってゆき、畦道(あぜみち)も徐(じょじょ)々に細くなって地平(ちへい)へと沈(しず)んだ。


 ほどなくして熙鳳と宝玉を乗(の)せた車は、葬列(そうれつ)の流(なが)れへと追いついた。

 先頭(せんとう)ではすでに鼓(つづみ)が鳴(な)らされ、旗(はた)がひらめき、鉄檻寺(てっかんじ)から迎(むか)にきた僧(そう)たちもずらりと並(なら)んでいた。

 ほどなく寺へと入ると、あらためて仏事(ぶつじ)が営(いとな)まれ、香壇(こうだん)も新(あら)たに設(もう)けられた。

 秦氏の霊(れい)は内殿(ないでん)の脇(わき)の一室(いっしつ)へと安置(あんち)され、その柩(ひつぎ)にしたがって宝珠(ほうじゅ)はしずしずと進(すす)んだ。

「義母(かあ)さまと二人きりにしてくださいませ」

 そう宝珠は懇願(こんがん)し、石床(いしゆか)の冷(つめ)たい房(へや)に宝珠は一人で宿直(とのい)することとなった。

 二人きりの房(へや)を蝋燭(ろうそく)の火がほのかに照(て)らし、外から聞こえてくる喧騒(けんそう)にも、ただ灯芯(とうしん)を揺(ゆ)らしながら夜は更(ふ)けてゆく。宝珠は睡魔(すいま)に耐(た)えていたが、夜の長さに耐(た)えきれず、宝珠がその小さな身(み)を敷布(しきふ)へ横(よこ)たえたころ、火は次第(しだい)に小さくなってゆき、柩(ひつぎ)と宝珠とを抱(いだ)いたまま、かの一室(いっしつ)は闇(やみ)へと溶(と)けていった。


 外では賈珍が親族(しんぞく)や来客(らいきゃく)の応対(おうたい)に追(お)われていた。

 食事をして帰るものもいれば、食事を辞(じ)してそのまま暇(いとま)を告げる者もいた。公侯伯子男(こうこうはくしだん)の諸家(しょけ)は一組、また一組と礼(れい)を述(の)べて帰ってゆき、未(み)の刻(こく)の終わりごろにようやく客はみな引きあげた。

 女客(にょきゃく)はすべて熙鳳が差配(さはい)をしていた。まず爵位(しゃくい)のある誥命(こうめい)の人々からいなくなり、午(うま)の刻(こく)を大きく過ぎたころには爵(しゃく)を持たない者もみな帰(かえ)り終えた。

 ただ、近しい親類(しんるい)だけは三日間の法要(ほうよう)のため鉄檻寺(てっかんじ)へ居残(いのこ)ることとなった。

「鳳ちゃんはとても帰(かえ)れないわね」

 王夫人はため息(いき)まじりに嘆(なげ)き、宝玉を連(つ)れ帰(かえ)ろうとしたが、宝玉はどうなだめても、

「鳳姐(ほうしゃ)と一緒(いっしょ)に残(のこ)る」

 と言い張(は)る。熙鳳は、

「ここにいても何も面白(おもしろ)いことなんてないわよ」

 と肩(かた)をすくめたが、宝玉の視線(しせん)を追(お)った。その先に秦鐘の姿(すがた)をみとめると、仕方なく口をつぐんだ。


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