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紅楼夢  作者: 翡翠
第十五回 王鳳姐(おうほうしゃ) 権(けん)を鉄檻寺(てっかんじ)に弄(ろう)し、秦鯨卿(しんげいけい)、趣(おもむき)を饅頭庵(まんとうあん)に得(う)。
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第十五回 1

 宝玉がそっと顔(かお)を上げてみると、純白(じゅんぱく)の簪纓(しんえい)がまず目に留(と)まった。王帽(おうぼう)の銀(ぎん)の翅飾(かざ)りが晩秋(ばんしゅう)の日ざしに照(て)りかえり、その王帽(おうぼう)から垂(た)れ下がった纓(ひも)は、柔(やわ)らかく微笑(ほほえ)む水溶の顎(あご)の下でゆるやかに結(むす)ばれていた。

  その身(み)を包(くる)む蟒袍(ぼうほう)には鋸歯(のこぎりば)のごとく鋭(するど)い文様(もんよう)と白波(しらなみ)の意匠(いしょう)に被(かぶ)さるようにして、五爪(ごそう)の龍(りゅう)が躍(おど)るように刺繍(ししゅう)され、宝玉の面前(めんぜん)にいる若者(わかもの)がただならぬ身分(みぶん)の人物(じんぶつ)であることをあかしていた。

 その顔(かお)は美玉(びぎょく)のごとく、その瞳(ひとみ)は明星(みょうじょう)のように、まさしく秀麗(しゅうれい)を画(え)に描いたようだった。

 宝玉は急(いそ)いで進(すす)み出ながら目通(めどお)りを申(もう)し上げると、輿(こし)の内(うち)から白(しろ)くしなやかな手が伸(の)ばされ、宝玉を制(せい)した。

 水溶は輿(こし)の内(うち)から宝玉を見やった。

 銀(ぎん)の束髪冠(そくはつかん)のあわいから艶(つや)やかな黒髪(くろかみ)がちらりと見え、額には双龍(そうりゅう)が海より出ずる図柄(ずがら)の抹額(まっこう)が巻(ま)かれている。身(み)に纏(まと)った白い蟒袍(ぼうほう)にも龍(りゅう)の刺繍(ししゅう)が縫(ぬ)い取(と)られていた。珠玉(しゅぎょく)を散(ち)りばめ銀(ぎん)をあしらった帯(おび)を巻き、その顔(かんばせ)は春の花のごとく、その眼(まなこ)は漆(うるし)を点(てん)じたように黒(くろ)々としていた。

 水溶は笑って言った。

「名は虚(むな)しく伝わらず。『宝』のごとく『玉』に似(に)たり、ですね」

 そう言ってしまって、このように尋(たず)ねた。

「お生まれになったときに口に含(ふく)んでいたという宝玉(ほうぎょく)はどこにありますか?」

 宝玉はそう問(と)われると慌(あわ)てて、懐(ふところ)からかの玉(たま)を取り出した。

 水溶はそれをじっくりと眺(なが)め、刻(きざ)まれた文字(もじ)をつぶやいてみると、こう尋(たず)ねた。

「まことに霊験(れいげん)があるのですか?」

 賈政が急(いそ)いで答える。

「そのようには聞いておりますが、まだその験(ため)しはございません」

 水溶は「ふぅむ」とうなると、賈政に笑いかけた。そのまま手中の宝玉と、賈宝玉を交互(こうご)に見つめる。

 再(ふたた)びかの宝玉を取り上げ、その奇特(きとく)を称賛(しょうさん)しながら、色彩鮮(しきさいあざ)やかなその紐(ひも)を整(ととの)え、手ずから宝玉の首にかけてやった。


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