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紅楼夢  作者: 翡翠
第十四回 林如海 揚州城に捐館(えんかん)し、賈宝玉 路(みち)に北静王(ほくせいおう)へ謁(えっ)す
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第十四回 22

「壮観(そうかん)だな」

 賈薔(かしょう)が言った。

「女性(にょしょう)の弔問客(ちょうもんきゃく)はどれほどいる?」

「十挺(じゅってい)の大轎(おおかご)、三四十の小轎(しょうかご)、輿(こし)や馬車(ばしゃ)まで含(ふく)めれば百はゆうに超(こ)えるだろう」

 賈蓉は芋(いも)の数(かず)でも数えるように言った。

「おいおい、俺(おれ)は何人(なんにん)いるかと聞いているんだぜ」

「そんなもの数えようもないよ」

 賈蓉は苦笑(くしょう)した。

「あの行列(ぎょうれつ)を見れば分かるだろう? 三里、四里(より)は続(つづ)いている」

 香天楼(こうてんろう)から見下(みお)ろせば、しらじらと明(あ)け行(ゆ)く天のもと、地を焦(こ)がし、街路(がいろ)を埋(う)め尽(つ)くすようにして灯火(とうか)が続(つづ)いていた。

「何がある?」

 賈薔(かしょう)は眉(まゆ)を顰(ひそ)めた。

「北静郡王(ほくせいぐんのう)がお越(こ)しになる」

「王の名代(みょうだい)が来るのか?」

 賈蓉は首を横(よこ)に振(ふ)った。

「王が直(じき)々にお見えになるのさ」

「それは……」

 と言ってさしもの賈薔(かしょう)も口をつぐんだ。

「奇特(きとく)な方だよ」

 賈蓉はあけすかにそう言ってしまって、

「それに御年(おんとし)は十九、我(われ)々とそう変(か)わらない」

「……そうか。それなら俺(おれ)は奥(おく)にひっこんでおこう」

 賈蓉は笑った。

「なぜ?」

「高貴(こうき)な身分(みぶん)の連中(れんちゅう)は、えてしていけすかないものだからな。王となればなおさらだろう」

 賈薔(かしょう)は顔(かお)をそむける。

「そんなことはないさ」

 賈蓉は静(しず)かに言った。

「東西南北(とうざいなんぼく)、四つの郡王(ぐんのう)の功(いさおい)のうち、北静郡王(ほくせいぐんのう)家の功(こう)が抜(ぬ)きんでいたのは知っているだろう?」

「ああ。だからこそかの王家(おうけ)は世(よ)々王爵(おうしゃく)を継(つ)ぐことができた」

 賈蓉は嘆息(たんそく)する。

「北静郡王(ほくせいぐんのう)は我(われ)々の祖(そ)が苦楽(くらく)を共にしたことを思い出してくださったんだ。先日、弔問(ちょうもん)に来てくださった折(おり)も、『異性(いせい)の者(もの)などとおっしゃらないでください。私たちは苦難(くなん)も栄誉(えいよ)もともにした兄弟(きょうだい)のようなものではありませんか?』とまで言葉(ことば)をかけてくださった」

「それはたしかに例(れい)がないな」

「だろう? おまけに容姿(ようし)は秀麗(しゅうれい)、そのご気性(きしょう)はすこぶる温和(おんわ)ときているからね」

 賈薔(かしょう)は言った。

「それじゃあ、なおのこと顔を合わせるわけにはいかんな」

「どうして?」

「非(ひ)の打(う)ちどころがなさすぎる」


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