第十四回 14
彩明はすぐさま帳簿に記し、交付の手続きを済ませた。
秦鐘はそれをまじまじと眺めていたが、こぼすように言った。
「寧栄の両府では何をするにもこの牌なのですね。誰かがこっそり偽物を作って銀子を受け取って逃げたらどうするんです?」
王熙鳳は弾けるように笑った。
「そんなことができるなら、決まりも何もなくなっちゃうわ」
宝玉は首を傾げながら言った。
「どうして、うちでは誰も対牌を持って受け取りに来ないの?」
熙鳳は鼻で笑う。
「受け取りに来るのが、あなたが夢の中にいるころだからよ。それよりあんたたちの夜学はいつになったら始まるわけ?」
宝玉は言った。
「すぐにでもやりたいさ。でも、なかなか書房を設えてくれないんだ。どうしようもない」
熙鳳は笑った。
「私に一言頼んでみなさいよ。すぐにできあがるわ」
宝玉は言った。
「急がせてどうにかなるものじゃないでしょう。時を待つしかないよ」
王熙鳳は声を立てて笑う。
「書房を設えるにしても先立つものがなければ少しも進まないわ。私が対牌を出さなければね」
それを聞くと宝玉は猿のように熙鳳へ飛びつき、
「姐姐、お願い。牌をだしてよ。入用の物を取りにいかせるんだ」
とせがんだ。
「体の節々まで痛いのにあんたに揉みくちゃにされちゃかなわないわ。……まったく。ちょっとからかったら、すぐこれだもの」
宝玉は目を丸くする。
「紙や表具なんかはもう手配しているわ。栄府の連中がいちいち私が呼びに来るまで待っているわけがないじゃない」
「本当?」
「ええ、本当よ」
だが、宝玉はなおも熙鳳に疑いのまなざしを向ける。熙鳳はため息をついた。
「彩明!」
熙鳳が呼ぶと、彩明は帳簿を持ってきて広げる。
「さあ、とっくり御覧なさい」
ちょうどそんなふうに騒がしくしているところに、
「蘇州から昭児が戻って参りました」
と呼ばう声がした。
「こちらへ来させなさい」
と熙鳳は命じる。
昭児は跪ずいて熙鳳へ丁寧に挨拶をする。
「それで? 何の用?」
昭児は口早に言う。
「二の老爺さまからのお達しです」
熙鳳が眉をあげた。
「林の老爺さまが九月三日の巳の刻に亡くなられました」




