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紅楼夢  作者: 翡翠
第十四回 林如海 揚州城に捐館(えんかん)し、賈宝玉 路(みち)に北静王(ほくせいおう)へ謁(えっ)す
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第十四回 13

「鳳姐(ほうねえ)さんのところにいさせてもらったらどうだろう」

 宝玉は秦鐘へ顔を近づけながら言った。秦鐘は顔をそむけながら答(こた)える。

「あの方はお忙(いそ)がしく、人の来(く)るのも厭(いと)われているとか。僕たちまで行ったらご迷惑(めいわく)ですよ」

 宝玉は首(くび)を振(ふ)った。

「僕(ぼく)たちを嫌(いや)がるもんか。おいで」

 宝玉は秦鐘の手を取(と)りかけたが、思いなおして手を放(はな)した。

「ちょっと待(ま)ってて」

 そう言うと、房(へや)の外にそっと歩(あゆ)み寄(よ)る。ちょうど、二人の男が歩いてくるところだった。

「……だから、奶奶(わかおくさま)が亡(な)くなったのは病のせいじゃないらしいんだ」

 もう一人の男が驚(おどろ)いたように言う。男はにやけながら首に手を伸ばした。

「だから……、さあ、木(き)に縄(なわ)をくくりつけて……」

 宝玉はとっさに耳をふさぐ。身(み)をかがめながら二人が通(とお)り過(す)ぎるのを待(ま)った。

「さあ、行こう」

 そう言うと秦鐘の手を引き、そのまま抱廈(ほうか)へ向かった。

 

ちょうど熙鳳は食事をしているところだった。二人の姿(すがた)を見つけると笑っていった。

「あらあら、ずいぶん遠くまで足(あし)を伸(の)ばしたものね。さあ、早く席(せき)に座(すわ)りなさい」

 宝玉は言った。

「おかまいなく。もう食べてきましたから」

「寧府(こっち)で食べたの? それとも栄府(あっち)で食べたの?」

「もちろん栄府(あっち)さ。あんな連中なんかと食べるもんか!」

 むくれる宝玉に熙鳳は首をかしげる。

「どうしたの? あなたらしくないわね」

「……老太太(おばあさま)のところで食べてきたんだ」

「何かあったの?」

「……何でもない」

 宝玉はそれだけを言って席についた。熙鳳はため息(いき)をつく。秦鐘もおずおずと椅子(いす)に腰(こし)かけた。


 熙鳳が食事(しょくじ)を終(お)えてしまうと、寧府の媳婦(にょうぼう)が牌(はい)を受け取りに来た。

「香燈(こうとう)の費(つい)えをいただきに……」

 熙鳳はそれに答(こた)えず笑って言った。

「今日あたりあなたたちが受け取りに来ると思っていたのに、なかなか来ないものだから忘(わす)れてしまったのかと思ったわ。こんな時分(じぶん)になって来たのね」

 媳婦(にょうぼう)は小さくなる。

「もしあなたが忘(わす)れていたなら、その分(ぶん)はあなたたちの払(はら)いになるから私の丸儲(まるもう)けだったのに」

 熙鳳は笑った。媳婦(にょうぼう)も安心(あんしん)したように笑う。

「まったくその通(とお)りでございます。すっかり忘(わす)れておりました。たった今思い出したのです。あやうく受(う)け取(と)れないところでしたわ」

 そう言うと対牌(たいはい)を受け取って立ち去った。


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