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紅楼夢  作者: 翡翠
第十四回 林如海 揚州城に捐館(えんかん)し、賈宝玉 路(みち)に北静王(ほくせいおう)へ謁(えっ)す
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第十四回 12

 熙鳳は対牌(たいはい)を投(な)げ出(だ)すと、

「来昇に伝えなさい。班玉のひと月分(つきぶん)の銀子(ぎんす)と米(こめ)を差(さ)し止(と)めるように、と」

 ある家人(けらい)がそっと指(ゆび)をさす。

「おい、おい」

「なんだよ」

 ぶっきらぼうに答えたもう一人は熙鳳の方を見やりもしない。

「見ろよ。眉(まゆ)が吊(つ)り上がってやがるぜ」

 家人(けらい)はそう肩(かた)を激(はげ)しくたたいたが、もう一人はそっと首(くび)を振(ふ)った。

「お、おい。どこに行(い)く」

 男は振(ふ)り返(かえ)った。

「決(き)まっているだろう? 来昇さまのところさ」

 去(さ)っていく男の背中(せなか)を見送(みおく)っていると、一つ、また一つと板(いた)が振(ふ)り下(お)ろされるのが横目(よこめ)に見えた。家人はそっと目を伏(ふ)せた。

 二十回を受(う)け終(お)わると、班玉は這(は)うようにして抱廈(ほうか)へと入(はい)っていった。皆(みな)はそろって聞き耳を立てる。

「明日同(あすおな)じような手違(てちが)いがあれば四十回、さらに明後日(あさって)もなら六十回よ」

 そう言い終(お)えるや、熙鳳は投(な)げかけるように言った。

「あなたたちも聞いているわね。打たれるのが怖(こわ)くない者(もの)はいくらでもしくじるがいいわ」

 一同(いちどう)は固(かた)まったまま動(うご)かない。

「……何をやっているの? さっさと持(も)ち場(ば)に戻(もど)りなさい」

 熙鳳がそう命(めい)じると、一人、また一人と立(た)ち去(さ)っていった。

「あなたももういいわ」

 熙鳳が顔(かお)も見(み)ずに言うと、班玉は床(ゆか)に額(ぬか)づき、ふらふらと退(さ)がっていった。

 班玉は抱廈(ほうか)から離(はな)れてしまうと、地(ち)に倒(たお)れ伏(ふ)しながらつぶやいた。

「文字一(もじひと)つ読(よ)めないくせに……」

 こうして人々は初(はじ)めて熙鳳の恐(おそ)ろしさを知ったのだった。以後は誰も怠(なま)けることもなく、各(おの)々の業(わざ)に励(はげ)むようになった。


「どうしてなんです?」

 李貴は尋(たず)ねた。

「どうして人が多(おお)いと、秦(しん)の若君(わかぎみ)が困(こま)ることになるんですかい? たかが法事(ほうじ)でございましょう」

 宝玉は首(くび)をゆっくりと横(よこ)に振(ふ)ると、吐(は)き捨(す)てるように言った。

「もういいんだ。哥哥(おにいさん)に話した僕(ぼく)が馬鹿(ばか)だった」

「若君(わかぎみ)、どこに行かれるんです?」

「決(き)まっているだろう。鯨卿(げいけい)のところさ」

「若君(わかぎみ)、わざわざ行かれなくても私が参(まい)ります」

 そう叫(さけ)んだが、宝玉は止まらなかった。

「若君(わかぎみ)!」

 李貴は一人、上房(きょしつ)に取(と)り残(のこ)され立(た)ち尽(つ)くした。


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