↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅楼夢  作者: 翡翠
第十四回 林如海 揚州城に捐館(えんかん)し、賈宝玉 路(みち)に北静王(ほくせいおう)へ謁(えっ)す
277/348

第十四回 8

「寅(とら)の刻(こく)になったら起(お)こしてちょうだい」

 熙鳳はそう平児に言いつけて、その前夜(ぜんや)は栄府に戻(もど)って休(やす)んでいた。

 寅(とら)の刻(こく)にいたり、ぼやけた頭(あたま)で身(み)を起(お)こし、なされるがままに着替(きか)えさせてもらって、手を清(きよ)めると、

「粥(かゆ)を召(め)し上がりますか?」

 と尋(たず)ねられた。

「ええ。羊(ひつじ)の乳粥(ちちがゆ)にしてちょうだい」

「お米(こめ)は硬米(こうまい)にされますか?」

「ええ」

 もちもちとした米粒(こめつぶ)から乳(ちち)の香(かお)りが漂(ただよ)ってくる。熙鳳はそれを一口、二口、口に入れて、口を漱(すす)ぎ終えると言った。

「今は何時(なんどき)かしら?」

 と聞いた。

「卯正二刻(ぼうせいにこく)にございます」

 と平児は答(こた)えた。


 来旺の妻(つま)はすでに大勢(おおぜい)の下女(げじょ)をひきつれて控(ひか)えていた。

「奶奶(わかおくさま)のご出立(しゅったつ)よ」

 そう声(こえ)が飛(と)ぶと、車の先頭(せんとう)の明角頭(みょうかくとう)に明(あ)かりが灯(とも)り、「栄国府」の三字(さんじ)を浮(う)き上(あ)がらせた。

 熙鳳が客間(きゃくま)のあわいを抜(ぬ)けると、にわかにぼんやりとしていた眼(まなこ)が見開(みひら)いた。

 熙鳳を乗せた車はゆるゆると寧府へ向かった。

 寧府の大門(だいもん)には門灯(もんとう)が明(あか)々とかかげられ、左右には提灯(ちょうちん)が並(なら)び、あたかも白昼(はくちゅう)のようである。その光(ひかり)は喪服(もふく)の僕従(ぼくじゅう)に照(て)りかえり両側(りょうがわ)に白(しら)々と輝(かがや)いていた。


 車が正門(せいもん)までたどり着(つ)くと、小者(こもの)たちは退(しりぞ)いていく。代(か)わって媳婦(にょうぼう)たちがやってきて、車簾(しゃれん)をそっと持(も)ち上(あ)げる。

 熙鳳は車(くるま)を降(お)り、豊児(ほうじ)がその片手(かたて)を取(と)って、二人の媳婦(にょうぼう)の手明(てあ)かりに導(みちび)かれていった。

 寧国府の媳婦(にょうぼう)たちは熙鳳を拝(はい)しながら応対(おうたい)した。

「お疲(つか)れになっていませんか?」

 と媳婦(にょうぼう)たちが熙鳳に聞くと、

「こんなことで弱(よわ)りきる私じゃないわ」

 と笑った。


 熙鳳はゆっくりと会芳園(かいほうえん)の登仙閣(とうせんかく)までたどり着くと、背(せ)を正(ただ)したまま霊前(れいぜん)に進(すす)む。 

 秦氏の棺(ひつぎ)は磨(みが)いたように輝(かが)き、神(こう)々しささえ放(はな)っていた。

「奶奶(わかおくさま)、どうぞ前(まえ)へ」

 媳婦(にょうぼう)にそう勧(すす)められ、かの棺(ひつぎ)を一目見(ひとめみ)た途端(とたん)、糸(いと)の切(き)れた真珠(しんじゅ)の首飾(くびかざ)りのごとく、はらはらと涙(なみだ)がこぼれた。豊児(ほうじ)はそっと主(あるじ)の手(て)を握(にぎ)った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。