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紅楼夢  作者: 翡翠
第十四回 林如海 揚州城に捐館(えんかん)し、賈宝玉 路(みち)に北静王(ほくせいおう)へ謁(えっ)す
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第十四回 6

 日は尾根(おね)に差(さ)しかかっていた。

 寧府の西(にし)から東(ひがし)まで、茶葉(ちゃば)、灯(ひ)の油(あぶら)、蝋燭(ろうそく)、鶏毛(けいもう)の叩(はた)き、箒(ほうき)などが配(くば)られた。

 また屈強(くっきょう)な男(おとこ)たちが駆(か)り出(だ)され、卓布(たくふ)、椅子(いす)の覆(おお)い、坐褥(ざじょく)、敷物(しきもの)、痰壺(たんつぼ)、足置(あしお)き、などが運ばれていった。

 彩明は何がどこに運(はこ)ばれていったか、その数(かず)はどれほどか、一気呵成(いっきかせい)に書きつける。来昇の妻がのぞきこんだそれは、実(じつ)に細(こま)やかで明瞭(めいりょう)だった。来昇の妻は嘆息(たんそく)した。

 ――さすがは辣腕(らつわん)と名高(なだか)い奶奶(わかおくさま)だわ。これは、もう……。


「さすがは奶奶(わかおくさま)ですわ」

 平児は茶(ちゃ)を器(うつわ)に注(そそ)ぎながら言った。

「たった一日で寧府の乱(みだ)れもすっかり無(な)くなってしまったようですね」

「そうかしら?」

 王熙鳳は笑(え)みをこぼしながら首(くび)を傾(かし)ぐ。

「家人(かじん)が楽(らく)なことだけをし、面倒(めんどう)なことが残(のこ)るという悪癖(あくへき)がなくなりました」

 平児は茶器(ちゃき)を渡(わた)す。

「来客(らいきゃく)の出入(でい)りも整然(せいぜん)としたものです。これまではお茶(ちゃ)を出している最中(さいちゅう)に、膳(ぜん)をすすめ、哭礼(こくれい)につきそいながら、客(きゃく)の応対(おうたい)をせねばならない、というようなふうでしたから」

「そうね。でもこれが当たり前なのよ」

 熙鳳は茶をすする。

「それぞれがそれぞれに責(せき)を押しつけ、暇(ひま)さえあれば休(やす)もうとし、隙をみて物(もの)を盗(ぬす)むというありさまだったのだもの。でも、私が来たからにはそうはさせないわ」

 平児には気(き)のない素振(そぶ)りを見せたものの、寧府において自(みずか)らの威(い)や、その命令(めいれい)が滞(とどこ)りなくいきわたっていることに、すっかり満足(まんぞく)していた。


 尤氏は病(やまい)に伏(ふ)し、賈珍は悲嘆(ひたん)に暮(く)れ、食(しょく)も喉(のど)に通(とお)らぬほどだった。そこで熙鳳は西府(せいふ)でさまざまな上等(じょうとう)の粥(かゆ)や手のこんだお菜(かず)を作らせ、人を遣(や)って届(とど)けさせた。

 賈珍も抱廈(ほうか)へそれに負(ま)けぬほどの豪奢(ごうしゃ)な料理(りょうり)を運(はこ)ばせて、熙鳳だけに供(きょう)させていた。

 熙鳳は骨(ほね)を惜(お)しむことなく、毎朝(まいあさ)、卯正二刻(ぼうしょうにこく)に現(あらわ)れ、点呼(てんこ)をし、日(ひ)の暮(く)れるまで寧府に入り浸(びた)った。

そんなある日、一人の丫鬟(じじょ)が抱廈(ほうか)を見やりながら言い捨(す)てた。

「あの方はちっとも抱廈(あそこ)から出てこられないのね」

 もう一人が慌(あわ)てて口の前(まえ)に指を立てる。

「そんなこと言わないで! 誰が聞いているか分からないわ」

「かまうもんですか」

 丫鬟(じじょ)は嘲笑(ちょうしょう)する。

「あの方は貴(たっと)きお方だから、私たちのような下賤(げせん)の者とは交(まじ)わりたくないんでしょう。女客(にょきゃく)があってもしらんぷりだもの」


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