第十四回 5
「来昇のおかみさん、あなたは毎日邸をあまねく見回りなさい。酒を飲む者、怠ける者、口論をする者……、そんな人たちは寧府にはいないと思うけれど……」
来昇の妻は小さな声で、「はい」と言った。
「万が一そんなやつらがいたら、私に報告すること。情けなどかけないで。そのときは……」
「そのときは?」
熙鳳はにこやかに言う。
「あなたの家はいかほど代を重ねていたかしら」
「それは……」
熙鳳はそれをさえぎって、
「まあ、三代目か四代目にはなるでしょう。きちんと報せなければ、そんな誉れも、無に帰すことになるんだからね」
来昇の妻は唇を震わせる。
「さて、これで矩は定まった。これから先、乱れがあったら、その組に話を聞くだけでいいわね」
熙鳳は彩明に視線を送ると、
「見なさい」
と言って箱のような物を持って来させた。来昇の妻がその箱をのぞきこむと、そこには羅馬の数字が描かれている。
「この鐘表は一つだけじゃなくてよ。私の向かうところどこにでも置いているんだから。私に付き随う者は誰でも知っていることだけれど、私は大事小事にかかわらず刻を定めて動いているの。上房には時辰鐘があったはずよね」
来昇の妻は黙ってうなずく。
「よろしい。覚えておいて。 卯正二刻に私が点卯するわ。そのときにそろっていなければ、どうなるか分かっているわね。巳の正刻には朝食、私への報告はその後、午の初刻にしか受け付けないわよ。戌初に祭壇の前で黄昏紙を焼いたら、私も見回るわ」
来昇の妻は額に皺を寄せながら書きつける。書き終えたのを見て熙鳳は言った。
「戻って来たら、私から夜番の者に鍵を引き渡す。それでいいわね」
来昇の妻はうなずく。
「そうそう。私は翌日もまた卯正二刻に来ますからね」
来昇の妻は深くため息をついた。熙鳳は来昇の妻の肩に手を置く。
「ここ数日はあなたたちにも苦労をかけるけれど、葬儀が終われば、きっと老爺さまが褒美をくださることでしょう」




