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紅楼夢  作者: 翡翠
第十四回 林如海 揚州城に捐館(えんかん)し、賈宝玉 路(みち)に北静王(ほくせいおう)へ謁(えっ)す
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第十四回 1

 鳳姐(ほうしゃ)来たる。

 寧府は揺(ゆ)れに揺(ゆ)れていた。

 ある者は恐(おそ)れおののき、ある者は口をあんぐりと開け、芋(いも)を洗ったような騒(さわ)ぎで、この府を束(たば)ねる総管(そうかん)来昇(らいしょう)が何度(なんど)も怒鳴(どな)りつけねばならぬほどだった。

 ようやく場(ば)が静(しず)まったころ来昇は言った。

「これより西府(せいふ)の二の璉の奶奶(わかおくさま)が内(うち)のことを取り仕切られることとなった。品物(しなもの)の取(と)り寄(よ)せや、指図(さしず)をされることとなれば、これまで以上(いじょう)に気をつけねばならん」

 咳払(せきばら)いをしながらそう言うのに、幾名(いくめい)かは目を伏(ふ)せ、幾名(いくめい)かは体(からだ)を震(ふる)わせた。

「朝早(あさはや)く来(き)て遅(おそ)く帰(かえ)ることは覚悟(かくご)せねばなるまい」

 あちこちから、ため息が漏(も)れる。来昇は咳払(せきばら)いをした。

「仕方(しかた)があるまい。一月(ひとつき)ほどの辛抱(しんぼう)だ。そのあとでゆっくり休(やす)めばよかろう。俺(おれ)たちも長く勤(つと)めてきた。せめて面目(めんもく)くらいは守(まも)るようにしようや」

 するとようやく皆(みな)の動揺(どうよう)はおさまり、

「おう!」

「それならいいや」

という声(こえ)が飛(と)んだ。

 すると、最古参(さいこさん)の家人(けらい)が白(しろ)いものの混(ま)じった髭(ひげ)をなでながら、

「まったく……、若(わか)い者(もの)は皆(みな)このありさまじゃ。少しはあの女傑(じょけつ)に締(し)めてもらったがよろしい。近(ちか)ごろは家の体(てい)すらなしておらぬから」

 と笑(わら)った。周(まわ)りの者(もの)は気まずそうに黙(だま)りこむ。


 ちょうどそのとき、来旺(らいおう)の妻(つま)が対牌(たいはい)を掲(かか)げながらやってきて、

「紙をちょうだい。紙! 呈文(ていぶん)と京榜紙箚(けいぼうしさつ)をこれだけ!」

 と紙片(しへん)を見せながら叫(さけ)んだ。周(まわ)りの者(もの)たちは慌(あわ)てて、

「姐姐(おねえさま)、とりあえずお茶を」

 と言いながら席をすすめ、二種(にしゅ)の紙(かみ)を数(かず)どおり用意(ようい)させる。

「儀門(ぎもん)までお持ちします」

 と一人の者が申し出ると、来旺の妻と連れ立って、そのまま出て行った。


「彩明(さいめい)!」

 熙鳳は小者(こもの)の名を呼んだ。

 小者は小さくなりながら熙鳳の前に進(すす)み出る。

「来旺の姐姐(おねえさん)から報(しら)せが来たわ。何がどのくらいあるか書きつけておいてちょうだい」

 そう言い捨(す)てて、帳簿(ちょうぼ)を広げた。


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