第六回
第六回は聖から俗への変調である。
その入口として、宝玉と襲人の情事が描かれる。これほど直截に性描写を持ってくるのは紅楼夢としては珍しい。ここは警幻仙姑に警告された淫に浸るな、という物語上の約束を破っており、宝玉にも破滅の新芽が芽生えたことになる。一方、襲人も主と関係したということで、侍女としてのたがを外した格好となる。襲人は理の側にいながら、理を都合よく運用するむきがあり、彼女がいわゆる理想の侍女でないことが分かる。
翻案ではこの場面で襲人に宝玉へのささやかな仕返しをさせることにした。神仙とはいえ他の女を思いながら抱かれる彼女に同情を感じたからである。
さて、挿話を一つはさんだのち舞台は貴族から民へと移り変わる。このあたり今までゆるやかに調子を整えていた物語の流れを、作者は大きく動かす。聖から俗へ。警幻仙姑から劉ばあさんへ。その落差の違和を解消するため、宝玉と襲人の挿話をはさむ。このあたり作者の力量に感嘆を禁じえない。
ここから物語は先ほどとは別の次元で俗から聖へと変調してゆく。その入口となるのが精神的な俗を象徴する周のおかみであることに注目されたい。この周のおかみとの会話から、劉ばあさんは今栄府を仕切っているのは王熙鳳であり、かつての鳳児であることを知る。が、実際に対面した劉ばあさんは風格も美貌もかつてとは見違えるように変わっている熙鳳に驚く。
熙鳳から援助を引き出すため、王熙鳳におもねろうとする劉ばあさんだったが、熙鳳に喝破されてしまう。追いつめられ劉ばあさんは、ここにいたって初めて真情を顕し、王熙鳳も真情をもってそれに報いる。ここで初めて、周のおかみと劉ばあさんから始まった俗の情が、劉ばあさんと王熙鳳のあいだの真情、聖へと移り変わる。
すなわち第六回は立場としての聖から俗へとすすんでゆき、情としての俗から聖へと閉じる美しい構造をなしているといえる。




