第十一回 24
「それは写し姿ですわ。そんなものいくら拭いても身なりはよくなりません」
そうたしなめたが、主である賈瑞は鏡を擦り切れるほど磨いている。
丫鬟は呆れ果てたが、衣服を用意せぬわけにもいかない。
少ない装いのなかから、そのなかでも良い物を見繕い、夜着を脱がせ、その衣服を着せた。
襟をなおし、裾を整える。
「何で私がこんなことをしなければならないのだろう」
そう思いながら、栄府へと送り出した。
そもそも不義ではないか。丫鬟はそう思う。二の奶奶にはむろん夫がいる。
それは言わずと知れた栄府の賈璉であり、器量こそ女傑と言われる熙鳳に劣るかもしれないが、家格としては申し分ない。
それに引き比べて……、そう思わずにはいられない。主の賈瑞は器量においても、家格においても賈璉に劣っている。主としてのひいき目を加えてもなおである。
丫鬟はため息をつきながら、賈瑞が脱ぎ捨てた夜着をたたみ始めた。
推何というおよそ丫鬟らしからぬ名前を与えたのは賈代儒だった。
孫である賈瑞が邪な気を起こしてはならぬから、というのが代儒の方便だったが、そのために丫鬟は生来の名を奪われた。
手のかかる主であることは間違いない。それでも丫鬟は賈瑞に尽くしてきた。かような主だけに苦労も多かったが、それだけになおさら満たされるものもあった。
その主が身分不相応に二の奶奶に懸想したのは何故だったのだろう? この邸から出ることのない身にはいくら考えても分からない。
しかも折悪しく、奶奶にはいつも会えないという。そんな不毛に不毛を重ねたようなことのために、困憊する己を、当の主は歯牙にもかけない。そのことが恨めしかった。
丫鬟は朝から疲れ果て、代儒がいないのをいいことに、賈瑞の上房へ倒れ込む。その拍子に先ほどたたんだばかりの夜着が崩れてしまった。
丫鬟は倒れこんだまま、それを引き寄せ、そのまま抱いた。
「……これだけは」
推何はやおら夜着に顔を近づけ、今は抜け殻となった男の匂いをそっと嗅いだ。




