第十一回 19
『双官誥』が終わると、熙鳳は楼の下を見下ろして言った。
「殿方はどちらに行かれたの?」
そばに控えていた婆子が答えた。
「老爺さまたちは、先ほど凝曦軒へ行かれて打十番の方々とお酒を召し上がっておられます」
熙鳳は言った。
「私たちの前ではご都合が悪いのね。裏では何をやっているか分かったもんじゃないわ」
尤氏は笑った。
「みんながみんな、あなたみたいに真面目な人ばかりじゃないのよ」
それから一同は談笑し、熙鳳が選んだ芝居まで終わってしまうと、尤氏が言った。
「さあ、お食事にしましょう」
そこで酒席が片付けられ、涼風のなか膳が並べられた。それが済んでしまうと、そろって園を後にし、上房でお茶を飲んだ。
「お車のご用意ができました」
そう小丫鬟が伝えると、王夫人たちは尤氏の母に別れを告げた。
外には一同の姫妾や、婆子や媳婦たちを引き連れて、尤氏が見送りに待っている。
賈珍も一族の男たちを引き連れて待ち受けており、邢夫人と王夫人を見ると、
「嬸さま方、ぜひ明日もお越しください」
王夫人は答えた。
「もう充分ですわ。今日は一日中座っていて、疲れてしまいました。明日はお休みさせていただきます」
車に乗りこもうとする最中、王夫人が聞いた。
「何を驚いているの? 物の怪にあったような顔をしているわよ」
王熙鳳はすぐに笑顔を作って言った。
「何でもございません。さあ、早く参りましょう」
王夫人は熙鳳の視線の先をみやる。一人の男がじっとこちらを見つめていた。熙鳳はそっと簾を降ろした。
からからと三台の車が轍を引いていく。潮がひくように人が消えていった。男がただ一人、門の先まで続く轍をじっと見つめている。
「賈瑞さま! 皆さまが宴に戻られるようにとの仰せでございます」
男はそれに答えもせず、手のひらをぎゅっと握りしめた。




