第十一回 18
「還魂の意味は分かるだろう?」
賈蓉は瑞珠の顔すら見ずに言った。瑞珠は唇を噛みながらうなずく。
「魂を還す。文字通りさ」
そう言いながら瑞珠に横目をやった。
「弾詞は?」
瑞珠はゆっくりと首を横に振った。
「安史の乱の後、玄宗の楽人、李亀年は江南へと逃れる。そして歌うのさ。天宝のころの唐朝の栄華をね。なぜ二の嬸子さまがこれを選んだと思う?」
「寧府の……」
瑞珠は言いよどむ。
「やっぱり君は鋭いね。嬸子さまはこう言いたいのさ。寧府がいかに堕落しているか。没落は目の前だ、とね」
「……老爺さま」
瑞珠は言った。
「何?」
「このことは聞かなかったことにいたします。くれぐれも他言無用に」
「怖いの?」
「いいえ」
瑞珠はきっぱりと言い、踵を返した。
「……ありがとう」
賈蓉はうつむきながら微笑んだ。瑞珠から返事が返ってくることはなかった。
瑞珠が戻ってくると、ちょうど『双官誥』が終わろうとしているところだった。
「『双官誥』、貞節を守り、子を育てて出世させる母の話だわ」
瑞珠がそうつぶやくと、
「これが終わって、あと二つ私がお願いした芝居が終わればちょうどいい頃合いかと思いますが…」
と王熙鳳が尤氏たちに尋ねているのが見えた。
「そうね。あなたの哥哥や嫂子たちは早めにお休みいただかなくては。いつまでも気が休まらないわ」
王夫人が言うと、尤氏は笑った。
「私たちのことならお気になさらず。太太たちはめったにこちらへ来られないのだもの。女どうしもうちょっとお話しましょうよ。まだ日は高い時分ですわ」
瑞珠のそばで舌打ちする音がした。
「みんな本当に案じないといけないのは誰か分かっていないんだ」
瑞珠は賈蓉の顔をふっと見やる。
「安心して。誰にも漏らすつもりはないよ」
賈蓉は弱々しく微笑んだ。
「病が重くなってはいけないからね」




