第十一回 17
穏やかな風に秋蝶が舞っている。
熙鳳はゆっくりと歩みながら園へと進んでいく。迎えにきた婆子たちも歩調を合わせながらゆるゆると列をなした。
「芝居はいくつ終わったの?」
婆子は息を切らしながら答える。
「八つか九つでしょうか」
そんなことを話していると天香楼の裏へとたどり着いた。
「あら二の若君」
婆子の一人がぽつりとつぶやいた。
見ると宝玉が丫鬟らとともに遊んでいた。
熙鳳のお付きの小丫鬟がささやいた。
「二の若君もお連れした方がよろしいでしょうか?」
熙鳳はため息をつきながら小声で言う。
「きっと今がつまらない演目なんでしょう。放っておきなさい。ただ……」
熙鳳は宝玉に叫んだ。
「宝くん。あまり悪戯しちゃだめよ!」
宝玉は聞こえなかったのか一瞥もくれなかったが、丫鬟の一人が代わりに言った。
「太太たちは楼上においでです。奶奶にはこちらから上がられますよう」
それを聞いて熙鳳はゆったりと裾を持ち上げて階を上がった。
すると階を登り終わったところに、尤氏が腕組みをしながら待っていた。
「あなたたちったら本当に仲がいいのね。ずいぶん話しこんでいたこと。いっそこちらに越してきて、あの子と住んだらどう?」
尤氏は笑っている。
「さあ、座って。まずは一献」
そこで熙鳳は邢夫人と王夫人に着座の挨拶をしてから、尤氏の母にも挨拶をした。その後、尤氏と横並びに席に着き、酒を飲みながら芝居を眺めた。
尤氏は芝居の題目の一覧を持ってこさせると熙鳳に選ばせようとした。
「太太たちがいらっしゃるのに私には選べませんわ」
邢夫人と王夫人が言った。
「私たちもあちらのお母さまももうずいぶん選んだの。今度はあなたが二つほどいいのを選んで、私たちに聞かせてちょうだい」
熙鳳は立ち上がりながら、
「それでは……」
と少し考えながら、『還魂』と『弾詞』を選んだ。
「瑞珠!」
尤氏は秦氏の小丫鬟を呼んだ。
「これを渡してきてちょうだい」
瑞珠は「分かりました」と答えたのち、手渡された紙片を見やった。
「『還魂』と『弾詞』……」
瑞珠が首をかしげていると、
「“祈り”と“皮肉”ってところかな」
透き通るような声が後ろから響いた。




