第十一回 13
熙鳳は初秋のあたたかな日ざしのなかへ飛びこんだ。
ゆるやかな風は自ずから熙鳳の頬をほころばせる。
「鳳哥」
一人の婆子が不意に熙鳳をそう呼んだ。
振り向いた熙鳳の顔に慌てて婆子は取り繕う。
「申し訳ございません。つい昔のことを思い出してしまったものですから」
熙鳳はその婆子の顔をまじまじと見た。幼いころ、金陵にいたころから随行してきた、古なじみの婆子だった。
「奶奶がまだお小さいころをつい思い出してしまって。今日の奶奶のお顔がいつもとは違って見えたものですから」
熙鳳は考えこむようにして、しばらく黙っていたが、
「そうね。そうかもしれない」
と一言つぶやき、微笑んだ。そこで張りつめていた他の婆子や丫頭たちもほっと息を漏らし、一行は寧府の奥へと進み、園の便門をくぐった。
その様はいかにも、
小橋は若耶の渓に通じ、
曲径は天台の路に接す。
石中の清流は湍を激し、
籬落は香りを飄わす。
樹頭の紅葉は翩翩たり、
疏林は画のごとし。
西風の乍ち緊まれば、
初めて鶯の啼くを罷め、
暖日の暄に当たれば、
また蛩の語を添ふ。
遥かに東南を望めば、
山に依る榭を幾処と建て
縦く西北を観れば、
三間の水に臨む軒を結ぶ。
笙簧耳に盈ち すなわち幽情あり、
羅綺 林を穿ち 倍して韻致を添う。
★ ★ ★
熙鳳はその歩みを緩めながら、周りの風を肌に感じ、その唇が解かれれば感嘆の声が地に融けていった。
すると築山の石の陰から一人の男があらわれ、前に出て熙鳳に言った。
「嫂さま、ご機嫌よう」




