第十一回 11
それを見るや熙鳳は口調を強くして言った。
「宝くん! あなたがそんなに女々しくてどうするの! 病人が少し弱気なことを口にしたくらいで。そもそも、そこまで思いつめることじゃないのよ。そんなに年をとっているわけでもないのに、少し具合が悪くなったくらいで、あれこれ考えすぎるなんて、自ら病を重くしているようなものだわ」
賈蓉がこぼすように言った。
「この病だって、別にどうってことないんですよ。きちんと食事を口にさえすればね」
熙鳳は宝玉へ向きなおった。
「宝くん、太太が早くいらっしゃい、って催促されているわ。ここであなたがそんなふうにしていたら、お媳婦さんも気を悪くしてしまうでしょ? 太太が心に懸けておられたのもそういうところなのよ」
そのまま賈蓉に声をかける。
「ひとまず宝の叔父さまを連れて行ってちょうだい。私はもう少しここにいるから」
賈蓉はうなずき、宝玉の手をひきながら会芳園へ向かった。
二人が出て行ってしまうと、熙鳳はため息をつき、二人の小丫鬟に言った。
「あなたたちも行きなさい。ここは大丈夫だから」
瑞珠は一礼をし、
「承知しました。璉の奶奶。こちらにお茶を置いておきますので召し上がりください」
そう言って、瑞珠は卓子の上にそっと盆を置いた。
瑞珠は辞去しようとするが、宝珠は唇を噛んだまま頑なに動こうとしない。
「宝珠!」
瑞珠はもう一人の丫鬟の名を叫ぶと、宝珠の裾を引っ張るようにして房を出た。
「少しは言うことを聞きなさい!」
房を出てしまってから、瑞珠がたしなめるように言った。宝珠はそっぽを向いたまま、むくれている。
ややあって、宝珠がようやく口を開いた。
「だって、あの二人がひどいんですもの。栄府の二の若君とはえらい違いだわ」
「あの二人って……、老爺さまと璉の奶奶のこと?」
宝珠はしぶしぶうなずく。
「ばかね」
瑞珠は吐き捨てるように言った。
「璉の奶奶が泣くのを我慢されていたのが分からなかったの?」
宝珠はずっとうつむいたままだった顔をあげる。だが、そのまま顔を伏せ、首を横に振った。
「でも、あの男は……」
宝珠は眉間に皺をよせながら言う。
「老爺さまと言いなさい。誰が聞いているか分からないんだから」
「うちの奶奶があんな容体なのに、栄府の二人にお茶を出すことばっかり……」
「もう少し頭を働かせなさい」
瑞珠はため息をついた。
「あれはうちの奶奶のためのお茶よ。宴席で食事が出たのにお茶が出ない道理がないでしょう? 私はあんなところで泣く二の若君の方がどうかと思ったけれど……」
「瑞姐姐は冷たい方だから分からないんです」
宝珠が恨むように言えば、
「泣けばいいってもんじゃないのよ」瑞珠はふと漏らした。「……そもそもあれは誰を想って泣いていたのかしら」




