第十一回 8
やがて尤氏の母と邢夫人、王夫人、熙鳳は食事を終えた。口をすすぎ、手を清めてから園へ向かおうという次第になったが、そこへ賈蓉が入ってきた。
「老爺さま方、叔父上や他のご兄弟の方々も食事はお済みです」
尤氏はうなずきながら、
「これから皆さまはどうなさるって?」
「栄府の大老爺さまは家のご用事があるということでお帰りになりました」
「二の老爺さまは?」
「お芝居があまりお好みでないようで、人の多さも煩わしく思われたのか、やはりお帰りになりました」
「他の親戚の方々は?」
「璉の二の叔父と薔さんに連れられて、すでに芝居へむかわれております。それから……」
といいながら賈蓉は懐から紙をとりだす。
「南安郡王・東平郡王・西寧郡王・北静郡王の四つの王家、さらに鎮国公牛府など六つの公家、忠靖侯史府など八つの侯家から、使いの者が名帖を携えて寿礼を届けて参りました」
「それはどうしたの?」
「すでに父上に報告し、すべて賬房へと収めさせました。礼品の目録も忘れずに控え、名帖には謝意を書き添えております」
「寿礼をお持ちいただいた方々へのおもてなしは?」
「旧例通りの銀子をお渡ししたのち、食事を召し上がっていただいております」
「他には何かあるかしら?」
賈蓉は首を横に振った。
「いえ。母上、もう芝居の用意はできております。太太お二人、老娘さま、嬸子さま方を急ぎ園へお招きください」
尤氏はうなずいた。
「ちょうど食事も終えたところです。すぐに行きましょう」
すると熙鳳がおずおずと言った。
「あの……、太太、お伝えしたいことが」
王夫人は目を丸くして言った。
「何? その言い方? 珍しいわね」
「先に蓉ちゃんのお媳婦の顔をうかがってから、園へ参りたいのですが……」
「もちろんよ」王夫人はそう言うと、一つ咳払いをし、「私たちも行きたいのはやまやまだけれど、あの子の方が騒がしくするのを嫌がるかもしれないから。あなたがよろしく伝えておいて」
と続けた。尤氏も熙鳳の手を握ってささやく。
「あなたが伝えれば、あの子もすっと胸に沁みるでしょう。少し慰めてあげてちょうだい。そうしてくれたら私も安心だから」
熙鳳の顔に翳が落ちた。尤氏は慌てて、
「済んだらすぐ園にいらしてね」
と笑顔をつくった。熙鳳はゆっくりうなずいて微笑む。
「ねえ、姐姐」
それまで黙っていた宝玉が言った。
「ぼくもついて行っていい?」
「仕方ないわね」
熙鳳はため息をつく。王夫人は宝玉に言い含めた。
「顔を見るだけで戻ってらっしゃい」
王夫人は咳払いを重ねながら言った。
「あちらはあなたの侄児の媳婦なのだから」
熙鳳はかすかに首をひねると、尤氏たちが会芳園に消えてしまってから宝玉の耳もとでささやいた。
「あんたまた何かやったの?」
「あの人には何もやってないよ」
宝玉がそううつむくのに、熙鳳は渋い顔をしたがそれ以上詰問することはなかった。




