第十一回 7
ほどなくして食事の席は設えられた。
尤氏は邢夫人・王夫人・そして尤氏の母を上座へと導き、自らは熙鳳、宝玉とともに脇の席へと腰かけた。
邢夫人と王夫人は苦笑いを浮かべながら言った。
「私たちはもともと寧府の大老爺さまのお祝いにうかがったはずなのに、これではまるで私たちが生まれ日を祝ってもらっているようですわ」
すると熙鳳が笑みを浮かべながら答える。
「寧府の大老爺さまは静謐のなかに生身をおかれ、心身を修し、すでに神仙とおなりになったと言ってもよいでしょう。太太たちのおっしゃりようはまさに『心到れば神も知る』ことに他なりませんわ。神や仙と言われるお方なら心を配られるだけで十分では?」
王夫人と尤氏はしばらく顔を見合わせていたが、王夫人も尤氏も熙鳳の真意に気づいたのだろう。思わず吹き出してしまう。
宝玉がぽかんとしながら聞いた。
「どういうこと? 寧府の大老爺さまはもう神や仙におなりだから、人としての礼を尽くす必要はないってこと?」
それを聞くと、王夫人も尤氏の顔からふっと笑みが消えた。
熙鳳が宝玉の手の甲をつねる。
「ばかね。あけすけにそれを言うのは野暮なのよ」
やがて尤氏の母、邢夫人、王夫人、熙鳳は食事を終えた。口をすすぎ、手を清めてから園へ向かおうという次第になったが、そこへ賈蓉が入ってきた。
「老爺さま方、叔父上や他のご兄弟の方々も食事はお済みです」
尤氏はうなずきながら、
「これから皆さまはどうなさるって?」
「大老爺さま(賈赦)は家のご用事があるということでお帰りになりました」
「二の老爺さま(賈政)は?」
「お芝居があまりお好みでないようで、人の多さも煩わしく思われたのか、同じくお帰りになりました」
「他の親戚の方々は?」
「璉の二の叔父と薔さんに連れられて、すでに芝居へむかわれております。それから……」
といいながら賈蓉は懐から紙をとりだす。
「南安郡王・東平郡王・西寧郡王・北静郡王の四つの王家、さらに鎮国公牛府など六つの公家、忠靖侯史府など八つの侯家から、使いの者が名帖を携えて寿礼を届けて参りました」
「それはどうしたの?」
「すでに父上に報告し、すべて賬房へと収めさせました。礼品の目録も忘れずに控え、名帖には謝意を書き添えております」
「寿礼をお持ちいただいた方々へのおもてなしは?」
「旧例通りの銀子をお渡ししたのち、食事を召し上がっていただいております」
「他には何かあるかしら?」
賈蓉は首を横に振った。
「いえ。母上、もう芝居の用意はできております。太太お二人、老娘さま、嬸子さま方を急ぎ園へお招きください」




