第十一回 6
そんな話をしているところへちょうど賈蓉が入って来て、
「皆さま、今日はお越しいただきありがとうございます」
と邢夫人、王夫人、熙鳳へ深々と礼をした。
それから尤氏へ向きなおり、
「さきほど太爺さまのところへこちらのお食事をお届けしてまいりました」
と言った。尤氏は不安げに口を開きかけたが、賈蓉は間髪入れずに続けた。
「父上は老爺さまのお側に控え、一族の方々のおもてなしをしておりますので、太爺さまのお言いつけに従い、父はこちらへは参らず、私を代理に立てられました、とお伝えしました」
「……それで」
尤氏は詰問するような調子で言う。
「太爺さまは何と?」
「大変お喜びで、『それでよい。それでよい』と何度も繰り返しておいででした」
尤氏はようやく安堵の息をつき、
「それならよかったわ」
と言った。
「それから『陰騭文』については急いで版を彫り上げ、一万枚を刷って、皆さまに配るようにとの仰せです」
「そんなの容易いことだわ。夕刻にでも来昇へ申しつけましょう」
賈蓉は拝手し、
「父上にも同じようにお伝えしております。私は戻って、皆さま方のお相手をしないといけないので、これで」
と言ってその場を立ち去ったが、熙鳳はそれを追いかけて呼びとめる。
「蓉ちゃん、待って」
賈蓉は立ち止まって振り向く。
「私いろいろと聞いちゃったんだけれど、あなたのお媳婦さんね……」
賈蓉は一瞬驚きの顔を見せ、すぐに真顔に戻った。
「本当のところ、今どうなってるの?」
賈蓉はわずかに眉を顰め、
「……良くありません!」
と短く言ったのち、語気を落ちつけながら、
「嬸子さまが直にご覧になればすぐにお分かりでしょう」
そう一言だけ残し、賈蓉は去って行った。
一方そのころ、尤氏は刑夫人と王夫人にこう尋ねていた。
「お食事ですがこちらで召し上がりますか? それとも園の方で召し上がります? お芝居はもう園の方で支度できているのですが」
王夫人は邢夫人に言った。
「食事をすませてから参りません? その方がいろいろと手間が省けますもの」
邢夫人もうなずく。
「ええ、結構だわ」
それを聞くや、尤氏は媳婦や婆子たちに、早く食事を運ぶよう言いつける。
すると、やおら戸口の方でそろって返事があがり、それぞれがそれぞれの膳を抱え、いっせいに宴席へ散っていった。




