魔獣と4回目の聖女
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「あの魔獣、おかしかった。意思があるみたいだったんだ」
通常魔獣は、最初に攻撃した人間を執拗に攻撃してくることが多い。キースは言った。
「でも、あの魔獣達。全部エリーゼの方に向かって行ったんだ。俺が攻撃をしたにもかかわらず」
リディアーヌは、その言葉に思い当たる節があった。それは、4回目の人生でのことだった。
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『聖女様をお守りしろ!』
3匹の魔石の魔獣との戦いの最中、何故か魔獣は執拗にリディアーヌを狙ってくる。
「アルフリートさま……」
「くっ。リディアーヌ様、お下がりください」
そういえば、3回目の時もそうだった。と、リディアーヌは思った。王国騎士団の守りを突破され、魔石の魔獣に……。今回の人生では、黒龍と出会うことはなかった。その代わり、王国騎士団からは森の中に広大な焼け跡があったとの情報は得ている。
(たぶん、黒龍を倒したのはあのヒトだわ)
赤味のある茶色の髭を生やした男。リディアーヌは、先の人生ではトドメは刺されていない。
(……でも、今は)
リディアーヌは、回復と身体強化を騎士団にかける。魔力が抜けていくのとは別に、頭に霞がかかるような感覚があったが、いつものことだと首を振って耐えた。
魔獣の額の魔石を砕いてアルフリートが1匹、あと2匹を王国騎士団の重鎧騎士隊が倒す。やはり、物理攻撃が有効なようだ。
「おぉ。なんとか黒龍を倒したが、こちらは倒されてしまったか。ふーん。聖騎士が全て倒したんじゃないんだな?じゃ、まだ間に合うか?聖騎士様と聖女様は俺と一緒に来てくれんかな」
「なにを……言っている?貴様は誰だ」
アルフリートが、両の目を黄金にして剣に手をかけた。たしかに、アルフリートが警戒せざるを得ないほど、その存在感は圧倒的だった。
倒れた魔獣の後ろから現れたのは、赤茶色の髭をした大きな男だった。しかしその右目は大きな傷を受けて閉じられている。
(あの時の……?!)
「リディアーヌ様は、お前などと行かない!」
「うわっ。問答無用かよ?!怖えなっ!やっぱ、手遅れなのか?」
(アルフリートさま、らしくない……。あれ?アルフリートさまらしいって、何だったかしら?)
強い焦燥感がリディアーヌを支配する。何かがおかしいのに、それが何なのかわからなくてただ怖かった。
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「リディアーヌ様!」
「あ、アルフリートさま?」
気づくとリディアーヌは、アルフリートに横抱きにされていた。
「申し訳ありませんが、リディアーヌ様はご気分が悪い様子。失礼させて頂きます」
「ああ、嫌なことを無理に思い出させて悪かったな」
勇者の許しを得ると、アルフリートはリディアーヌを横抱きにしたまま足早に廊下を進む。
「あっ、あの。アルフリート様?私、大丈夫です。歩けますから……」
「……ダメです。あなたはそう言っていつも無茶ばかりする」
どこにいくのかわからないが、アルフリートがリディアーヌをおろしてくれる様子はない。
(あ、このドアはアルフリートさまが眠っていた部屋の……)
魔王城がキサラギ城と呼ばれるようになり、様変わりした内装だが、このドアはそのまま変わらなかった。
アルフリートは、リディアーヌを抱えたまま器用にドアを開ける。ポスン……とベッドにリディアーヌを横たえると、アルフリートがリディアーヌの額に額を合わせてくる。
「熱はないようですね。ほかに何処か具合が悪いところはないですか?」
(……アルフリートさまらしい。そう、アルフリートさまらしいわ。いつも過保護で、いつも私のことを大事に扱ってくれていた)
4回目の人生で思い出せなかったアルフリートらしい優しさに、リディアーヌはほっと息をつく。それと同時に涙が止まることなくこぼれ落ちた。
「リディアーヌ様……?何が悲しかったんですか?」
「ううん、嬉しくて」
アルフリートが涙を拭ってくれる。
「アルフリートさまが優しいこと、思い出せて嬉しくて」
「リディアーヌ様……。俺はそんな」
たぶんアルフリートは、自分は優しくないと言いたいのだろう。
「言わないで。アルフリートさまは優しい。出会った時からずっと。たとえ、アルフリートさまが魔王になってしまっても、きっと私、アルフリートさまが好き。でも、それでも」
リディアーヌの、涙は止まらなかった。
「……今のあなたが一番好き」
瞠目したアルフリートが、リディアーヌに微笑みかける。
「リディアーヌ様には敵わない。では、今のままでいます。……その代わり、ずっと貴方のそばにいることをお許しいただけますか?」
「はい。もう、離れないで?」
明日という日はまた2人を翻弄するのかもしれない。それでも2人の口づけを邪魔するものは今は誰もいなかった。
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