長老が幼女である理由その代償と願い
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黒い焔が消えると同時に、リディアーヌを蝕んでいた吐き気と死の気配も消えた。
「長老さま……?!」
ようやく目を開くことができたリディアーヌの目の前で見る間に長老の体が小さくなっていく。
「ふむ。次あたりが限界か」
先ほどまで6歳程度の見た目だった黒髪の幼女は、ダブダブの服を着た3歳くらいのさらに幼い見た目になっている。
「リディアーヌ様!!」
異常を察知したアルフリートが、両の瞳を黄金に変えて扉から駆け出してきた。
「……フローリアが、裏切りました。ハイデの里出身であるフローリアの叛意。わしのことは如何様にも処断を。しかし里のものはお赦し頂けませぬか」
アルフリートより少し遅れて出てきた勇者が言う。
「部下の責任は、俺の責任だ。フローリアは、過去に聖女と聖騎士に故郷を焼かれてから強い憎悪を持っていた。防げなかった俺が悪い。コノハナ、許せ」
「いいえ、わしらは長く生きすぎました。もう、残り少ないこの命は、未来ある者たちのために使いたいと思うております」
「…………。ああ、そうだな」
そして勇者は、振り返ってリディアーヌとアルフリートに深く頭を下げる。
「謝って済むことではないが、すまない、リディアーヌ、アルフリート」
そして、アルフリートに目を向けて勇者が言った。
「……さて、アルフリート。序列一位としての意見を聞かせてもらえるか?俺はどんな処断も甘んじて受けよう」
未だ凍えそうなほど冷たい黄金を両眼に据えたままアルフリートがようやく口を開く。
「許すも許さないも、あなた方に非はない。だが、フローリアは序列四位を取り下げ、総力を上げどんな手を使っても処断する。構わないだろう?」
その問いに、勇者は重々しく頷いた。
「アルフリートさま」
「リディアーヌ様、お赦しを。私情だけではないのです。そうしなければ、軍の秩序が保てません」
以前のアルフリートならば、リディアーヌの命に危険があれば、どのような手を使っても相手を自らの手で始末しただろう。だが、今は……。ようやく黄金を左の瞳だけにしたアルフリートが、コノハナの前に跪く。そうしても、アルフリートの背は、今やコノハナよりも高くなっていた。
「コノハナ殿。リディアーヌ様をお守りいただき感謝します。貴方は恩人。必ずその恩に報いましょう」
「ありがたきお言葉。では、わしの亡き後も、ハイデの里をお守り下さるよう願います。そして残されたこの命、勇者の剣のために使うことを誓いましょう」
ようやくリディアーヌの方を見たアルフリートが、その体を抱きしめる。
「また、つらい思いをさせてしまいました。やはり俺は不甲斐ない」
「今回のことで私が死ねば、貴方も……。これからの計画も全て泡と消えたでしょう。私の注意が足りなかったのです」
「リディアーヌ様」
「アルフリートさま」
「あー、ゴホン」
2人の空気を咳払いが吹き消す。
(はっ。人前で私は一体なにをしてたのかしら)
リディアーヌの頬が薔薇色に染まる。アルフリートをチラリと見たが、顔色に変化はない。しかしその表情は少しだけ悔しそうだ。
「ふふふ。そなたらは、本当に仲の良い。まるでかつての聖女様と勇者様のようだ」
「長老さま……。私のために申し訳……」
「謝るのはやめてくださらぬか。ふふっ。……それよりひとつ教えて頂けませぬか?」
長老は、以前よりさらにその姿とチグハグな、威厳ある態度でリディアーヌに話しかける。しかし、その瞳は悪戯げな光を湛えていた。
「小耳に挟んだのですが、エリーゼがある御仁に命を救われたと言う話。事実でございましょうか?」
「え?」
(エリーゼが命を、救われた。あの時の事よね)
「たしかにそんな事実は、ありますね」
「そうですか。これはこれは。この先が楽しゅうなってきました。ふふふふっ」
リディアーヌも誰も、その意味を理解できなかった。しかし、勇者だけはわかっているのか、少し口元が弛んでいる。リディアーヌは不思議に思ったが、これからのことに頭を切り替えることにした。
(なにが起こるか、この先は今までのようにいくのかわからない。でも……)
振り返れば、もうリディアーヌは一人ではなかった。そこには心強い仲間がいる。今はもう、一人で戦う必要はないのだ。リディアーヌは、進む。それぞれが望む未来を掴む為、勇者の剣たちと共に。
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