勇者の剣たちの作戦会議
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「それでは作戦を話し合うか。まず、リディアーヌ、アルフリート。知ってる情報は、全て話してもらえるか?」
勇者は、城の一室にある円卓にキサラギ領の地図を広げた。既にその地図には赤いバツ印がいくつかつけられている。
アルフリートが口を開く。
「魔獣の出現箇所は、その時によって違いました。ですが、桁違いに強いのは黒い龍と魔石を額に埋め込んだ3匹組の魔獣です」
今、円卓を囲んでいるのは勇者シンジ、アルフリート、リディアーヌ、執事ギルマン、ギュンター。そしてもう一人、妖艶な美女がいる。
(この人、4回目と5回目で会ったことがある。直接戦ってはいないけど、ギュンターさんと一緒にいた)
「魔石の魔獣は、人を食べます。倒せないと、王都が襲われます。おそらくその前に、キサラギ領の人々も……」
2回目の最後を思い出す。あれは、恐ろしい体験だった。思い出すだけで震えてくる。
(2度とあんな目には会いたくない。誰も会わせたくない)
すでに、共有事項としてリディアーヌが人生を繰り返していることを、ここに集まった者は理解している。
「4回目と5回目の人生では、黒龍は既に倒されていました。そのあと出会い戦いになった時、ギュンターさまは、2回とも片目を失っていました」
「ふーん、片目だけの損傷で黒龍を倒すなんて、やはり対魔獣戦では超一流だな」
「……400年前、無傷で倒した御方が言ってもな」
「…………無傷では、なかったさ。身体は無事だったが、俺はあれで半分以上成り果てた」
おそらく、400年前も勇者は黒龍と戦ったのだろう。そしてその死闘の末、世界の一部を忘れてしまった。そこから先は……。
(2回目の時のアルフリートさまも、あのままギュンターさまに倒されずに戦い続ければもしかしたら)
「すまないな。リディアーヌとアルフリートが、壊れずに魔王にたどり着くのが闇の聖女誕生の絶対条件だった。あの時の俺も、黒龍をひとりで倒してしまったアルフリートを生かすわけにはいかなかったのだろう。……俺を憎むか?」
そこまで黙っていたアルフリートが口を開いた。
「リディアーヌ様が、あのような形で繰り返していたのを救ったのが貴方です。憎むことは出来ません。しかし、次に魔王に成り果てれば俺が屠ります」
「死ねない俺を、か?」
「死だけが世界とのつながりを断つ方法ではないでしょう?貴方の女神のように」
その呼び名が出た時、勇者は暫し俯いた。そして外見に見合った爽やかさで微笑んだ。
「そうか。その時は頼むよ。アルフリート」
(勇者さまとアルフリートさまは、同じ宿命。もしアルフリートさまが……)
リディアーヌの手を、アルフリートが強く握ってくる。見上げると、夜空と月のような瞳がこちらを見ていた。
「なりませんよ、俺は。貴方を悲しませたくはないですし、俺が死ぬと貴方も死ぬ。そんなの俺が赦せる筈ないでしょう?」
他のヒトが聴けば、呪いのように思える、2人の命を繋ぐ魔法。けれどソレは、いつも互いに自己犠牲的だったアルフリートとリディアーヌを変えていく。歪んだ理が、少しずつ少しずつ綻んでいく。
既に魔王に成り果てて聖女とともに消える筈だった魔王は、勇者に返り咲いた。
黒龍を倒し、魔王になる筈だったアルフリートは、勇者の剣となった。
愛するヒトを忘れ、魔王を倒す筈だったリディアーヌは、闇の聖女となり未だ愛するヒトのそばにいる。
綻んだ理の先に、何が待っているかは誰にもわからない。しかし、運命の歯車は廻り続ける。その先の未来へと。
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勇者やアルフリートは、まだ作戦を練っている。会議室を一足先に出たリディアーヌに、先ほどの妖艶な美女が声をかけてくる。
「闇の聖女様。私、序列四位、フローリアと申しますわ」
「フローリア様、私はリディアーヌと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「元聖女様、私の生まれた村は理外れが多くおりましたの。……これを見ていただきたいですわ」
元聖女、という言葉に少しの引っ掛かりを感じながらも、リディアーヌはフローリアから差し出された手を見つめた。
シュルリとその手にはめていた黒い手袋が外されると、その手の甲には紫色の石が埋まっている。
「いかん!フローリア!」
高い幼い声が聴こえた気がしたが、世界が歪んだような感覚にリディアーヌは、思わず口を押さえた。
「代々の聖女と聖騎士は、理外れを次々と処断していきましたわ。今は過去、聖女の命により私の村も火を放たれましたの」
「フローリア、なんということを」
黒髪の威厳がある幼女が、リディアーヌに駆け寄る。
「私は聖女などと共に戦えませんわ。長老がこの場におられたのは残念ですの。聖女と聖騎士を千載一遇の好機に仕留め損ねてしまいましたわ。それでは、ご機嫌ようですの」
そう言って、フローリアは消えた。
グルグルと混濁する意識と、強い吐き気。何度も繰り返すリディアーヌには、死が迫っていることが理解できた。
「転移の宝珠か。……大丈夫。死なせはせぬ。そなたは、わしらの希望なのだから」
長老の体から、黒い焔が溢れ、リディアーヌを包んでいく。その焔は、悍ましい見た目と違い、柔らかく暖かかった。
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