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共生世界  作者: 舞平 旭
探索
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白い腕時計

 部屋には机が数個、整然と並んでいた。落ちた時に大きな音を立ててしまったが、何の反応も周囲には認められなかった。彼女に抱えられて机から降りると、周囲を見渡した。薄暗くて詳細は分からなかったが、ここは小さなオフィスのようだ。この部屋には明かりはついていなかった。だが上の階の灯りはついていたのだ。他の階ならまだしも、ここに電源が来ていないはずがない。それに設備図によると、この階には電源室もあるのだ。案の定、壁のスイッチを入れると壁一面が光り始めた。二人は明るい光に眼を細めた。

 薄い埃に覆われた部屋には、机が10個ほど並んでいた。殆どが普通の事務机だったが、椅子は個々に異なっていた。かなり座り心地の良さそうな物もあり、名々が自分の趣味に合う物を購入したのだと分かる。多分システムエンジニアの部屋だろう。彼らはデスクワークが長いため、椅子にこだわる人が少なくない。ゴチャゴチャした机の上にはコンピューターが置かれていたが、私物も多く、シールや写真などかなり個性的で、普通のオフィスではあり得ない乱れようだった。特にアニメのフィギュアが、かなりの数置かれているのが眼についた。フィギュアやスナックの袋の幾つかには、製造日が2035年と記載され、『Made in East Japan』と書かれていた。やはり、この施設は2035年で放棄されているのだ。だが東日本というのは?なぜわざわざ『東』と付ける必要があるんだ?彼には薄っすらとだが、MASAMIのお勉強で東西戦争について聞いた記憶があった。日本が東西に分かれて戦争をしたというのは事実だったのだ。



 そして、その椅子の一つには、見たくはない物が座っていた。


「きゃぁっ!」


 いきなりレイヨが菊池に飛びついてくると、震える指で部屋の一角を指し示した。


「あ、あれ」


 言われるまでもなく、彼も気がついていた。デスクの一つには白骨化した死体が座っていた。経年変化に伴い、白骨の関節の多くは離れていたが、残った服がなんとか人間の形を保っていた。頭部も机に突っ伏していたため、所定の位置に残っていた。

 菊池はゆっくりと死体に近づいた。遠くから見ただけて、左側頭部の銃創が判別できた。着ている物はボロボロだが、辛うじて背広姿とわかった。そして左手にデジタルの腕時計が腕輪のようについていた。くすんでいるが、白いかなり派手なものだ。そして、周囲に銃は落ちていなかった。


「この人も殺されたんだ・・・」


「え?この人も?」


 彼女は彼の背中から、恐る恐る覗き込んでいた。


「ああ。でもかなり古そうだ」


 周囲に銃が無い以上、誰かが持ち去ったのだ。加害者でなければ、遺体をこのまま放置するのは妙だ。仮に、自殺遺体を仕方なく放置したとしても、遺体は時計を左手にしているのだから右利きだ。左側頭部を撃ち抜くことはないだろう。



 遺体を離れ机や棚など探したが、起動するコンピューターは無く、他に特に目新しい情報は見つからなかった。ちょっとした領収書やメモなどはあったが、新聞・雑誌を始め、何かが記録された紙は見当たらなかった。ここは情報管理部門の部屋のようなので、当然、研究関係のものは皆無だった。

 菊池は机の上にMTが一つ置いてあるのを見つけ手に取った。埃を払ってみた。多分MTだろう。小さな懐中時計のような形だが、脇に受話器のマークやEnterなどの文字が小さく記載されていた。フレキシブル・モニターの引き出し口やプロジェクターのレンズは何処にもない。非物理的モニターだとは思うが使い方がわからなかった。自分の時代から進歩しているようだ。その時彼は、もしかしたら紙媒体の資料は破棄されたのではなく、元々無いのかもしれないと思った。電子化が進み、安価なMTが紙に勝る視認性と携帯性を兼ね備えることができたなら、紙は必要がなくなるだろう。自分の時代でも、紙媒体はかなり少なくなってきていた。そうなると、情報の獲得はかなり困難になる。菊池は深いため息をついた。

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