楽しそうだな
二人は廊下に出ると、そのま真直ぐにMASAMIの示したサーバー室に向かった。
廊下にはまた白骨死体が倒れていた。彼らは流石に慣れてきたのか、あっさりと死体を見つめることができた。この遺体は骨がバラバラに四散していたが、左腕が無かった。上腕骨の断端は鋭く、綺麗に切断されていることから、かなり鋭利な刃物で、それもかなり強い力で切断されたことになる。果たしてそんなことが人間に可能なのだろうか?よく剣劇で見るような、日本刀で腕が切り飛ばされるなんてことは、そう容易いことではないはずだ。
死因は一目瞭然だった。骨に混じってナイフが残っていたのだ。菊池は少し躊躇したが、ナイフを拾った。刃には蛋白質の変生物が多量についていたが、布で拭くと綺麗な刃が現れてきた。まだ十分に使える。サバイバルナイフという奴だ。柄の蓋を捻じると中から針やコンパスが出てきた。糸は風化したようで、糸くずと化していた。
「タカヨシ、ここ見て」
レイヨが指差した場所を見ると、右大腿骨が抉れている様だった。生前の傷にしては、他の部位とかなり色調が異なっていた。良く遺骨を調べると、あちこちに同様な、比較的新しい傷がついている。何者かが、わずかに残った乾燥肉を食べるために、骨をしゃぶったようだった。骨が削れているのだから、かなり強い顎を持つ何かがいるのだろうか。さっきレイヨが説明してくれた『地虫』というやつかもしれないし、他の化け物かもしれない。
死体の直ぐ先にはメインサーバー室のセキュリティドアがあり、右手には情報管理室室長とプレートの書かれた部屋があった。菊池がコンピューター室に向かおうとすると、レイヨは右手のドアを開けた。
「あ、開いた」
「どうした?何かあった?」
彼女は何も言わずに部屋の中に入って行った。
「おい、レイヨ、一人で動くと危ないよ」
彼も彼女の後を追って中に入った。中は狭い個人オフィスで、机と小さな応接セットが置かれ、壁の飾り棚には雑貨と本が並んでいた。この手のオフィスにしては全体にかなり整理されている。彼女は机の向こう側に回りこんで、何かをじっと見つめていた。菊池が後を追うと、彼女が見ていたものの正体がわかった。それは写真だった。古いもののようで、若い男女が寄り添って写っていた。二人で遊園地でも行った時のものか、楽しそうだった。隣には家族写真もあり、男女は中年になっていた。子供だけの写真も飾ってあった。男の腕には白い腕時計が着けられていた。
「どうしたの?」
彼は彼女に尋ねた。彼女はじいっと遊園地の写真を見つめていた。
「ううん。何でもない。ただ楽しそうだなと思って・・・」
レイヨは寂しそうに話した。菊池は彼女に里心がついたと勘違いし、わざとくだけた感じで対応した。
「何言ってるんだ、若いのに。君だって彼氏ぐらいいるだろ?一緒に遊びに行けばいいじゃないか」
「そんなの無理。私に・・・私達には・・・」
彼女は泣き出しそうな顔でかぶりを振った。
「私達に?なんで『私達』なんだい?」
「掟なの・・・私達の村では、18歳までは男の人とお付き合いしちゃいけないの・・・」
彼女は俯きながら悲しげに答えた。彼は聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がして、気まずさに頭をかいた。
「・・・ゴメン。気を悪くしたかな」
「ううん、いいの。別に付き合いたい人がいるわけじゃないし。私達には大切な役目もあるし」
『役目』という言葉が引っかかったが、彼女の吹っ切れたような笑顔を見ると、これ以上の質問は出来なかった。
二人は、無言で部屋を漁り始めた。本が幾つかあったが、コンピューターやスポーツ関連ばかりで、大した情報にはならなかった。デスクは鍵がかかっていた。菊池は工具でこじ開けたが、大した物は入っていなかった。




