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共生世界  作者: 舞平 旭
探索
53/179

ダクト

 格子を外すと、フィルターと換気装置は押すだけで簡単に外す事ができた。その先には下に向かう縦穴が、真っ黒な口を空けていた。縦穴は先程の横穴に比べて広く作られていた。


「それじゃ私から行くね」


 彼女は臆する事も無く、器用に手足と背中で壁を突っ張りながら、ゆっくりと降りていった。高さは1階分なので大した距離ではない。


「あれ、タカヨシ、行き止まりだよ!」


「え?そんなはずないだろ?横に行く道ないかな?」


 薄暗くてよく見えないが、彼女は壁のあちこちを調べてくれたようで、暫くしてから返事があった。


「やっぱり、どこにも行けないよ。幾つか小さな穴はあるけど、みんな床下に向かってるみたい」


「ええ?そんなはずは・・・」


 菊池は考えた。

 確かに建物図はエアーダクトにズレがあった。あれはなんだったんだ?


「ねえ、どうするのよー」


 下からレイヨの少し苛立った声が響いたが、彼は気にせずに考え続けた。


 ここは、何だ?


 そうだ、ウェット・スリープ室は『BSL-4』バイオセーフティーレベル4という最も厳しい隔離施設なんだ。だったら、換気システムは独立しているに違いない。すると、建物図は・・・。


「そうか、空調システムのダクトが並列しているんだ!」


 そして彼は縦穴にいるレイヨに声をかけた。


「レイヨ!壁の何処かに出っ張りはないか!」


「えー?出っ張り?」


 彼女は周囲を調べ始めた。


「あ、あるよ。ほら、ここ!」


 菊池は行き止まりの縦穴に降りて行った。本来ならレイヨを出してから一人で作業したかったが、横穴は狭すぎて入れ代わることは出来ない。足を突っ張りながら降りて行くと、途中に四角に窪んだ場所があった。ここだ。多分メンテナンス用の開口部だ。ボルトでしっかり固定され、こちら側から開ける術はない。だが、ダクトの材質は薄い。なんとかなるかもしれない。彼は片足で壁を突っ張りながら、思いっきり開口部を蹴りつけた。


「きゃあ!な、何?」


 下から悲鳴が上がったが、気にせず蹴り続けた。4~5回で開口部はアッサリと弾け飛び、足は隣のダクトの壁をも凹ませた。


「やった!空いた!」


 菊池は穴から頭を出して外を伺った。外は真っ暗で、狭い空間だった。目の前にこちらと同じダクトが下に向って走っていた。


「ここから隣のダクトに行けるよ。先に行くから、後から来て」


 下のレイヨに説明すると、彼は開口部の縁を掴むと足から移動した。


「うわぁ!」


 こちら側のダクトの壁は滑りやすかったため、彼は足を滑らせてしまい、そのままダクトを真下に落ちていった。


「くそ!」


 彼は懸命に身体を踏ん張った。肘や裸足の足底に摩擦熱を感じた。そして彼はなんとかダクトの途中で留まることができた。


「危ねー」


 彼は溜息を一つつくと汗を拭った。下手をすれば、下のダクトを破壊して階下に落下する所だった。天井から落ちたら無事には済まないだろう。


「タカヨシ、大丈夫?」


 上から彼女が心配そうに声をかけてきた。


「なんとか大丈夫。こっちに来れる?」


「うん!へっちゃら!」


「いいかい、ユックリこっちに移るんだ。滑りやすいから気をつけて。落ちても、僕が下で支えて上げるから心配しなくていいよ。できるかい?」


「うん。でも、絶対に上を見ちゃダメだよ」


「わかってるよ。どうせ真っ暗だから何も見えないだろ?」


 菊池は緊張を削がれた気がした。変わった女の子だな。命の危機に瀕してもパンツの心配か。彼はクスリと笑った。その時、大きな悲鳴と共にレイヨが彼の上に落ちてきた。


「ぐわ!」


 そして、結果は菊池の恐れた通りとなった。二人はそのままダクトを滑降し、下の壁を突き破って階下に落ちていった。菊池を下にして二人は部屋の机の上に落下した。机のPCなどを押しつぶし、轟音が辺りに響いた。


「ぐがっ」


 菊池は呻いた。背中を強打し息ができなかった。

 彼の上にまたがっていた彼女は、動かなくなった彼を見ると、襟をつかんで揺すり始めた。


「きゃー!タカヨシ、大丈夫?死んじゃイヤー、タカヨシ!」


「だ、大丈夫だから、や、やめて」


 彼女は菊池を抱きしめて泣いた。


「奇跡だ・・・」


 幸い、落下は大した外傷には至らなかった。ダクトの壁が接合部から外れ、その上に落ちたためクッションの役割をしてくれたようだ。また床ではなく机の上に落下したのも幸運だった。しかしこのままではこの娘に殺されるのではないかと、菊池は泣きながら自分を抱きしめているレイヨを見て思っていた。

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