05308R.アルティ・ティーダ過去編その8「『火の力』と『闇の力』の鍛錬」
こうして、試しを乗り越えた私たちの力の鍛錬は始まって――
すぐに終わる。
使徒の言葉通り、既に私たちは力を使えるようになっていたからだ。
護衛として鍛錬を見守っているとき、座学やコツを聞いていたのも大きい。
初歩の修得は早く、たった一晩で終わってしまった。
さらに言えば、三日目には自在に出し入れできるようになって、例の開けた空間で私とティーダは更なる段階を試していた――
「――《火》よ!」
そう叫んだ私の突き出した両手から炎が吹き出る。
扱いに慣れてきた私は、もはや篝火や焚き火を超えて、人一人は軽く呑み込めるほどの火炎を瞬時に生み出せるようになっていた。
さらには火炎を操って動かすことも可能。
命を持った猛獣のように襲わせることができる。
そんな危険な火炎の先に立つのは、私と鍛錬を乗り越えたティーダだ。
彼も両手を前に出して、同じく力を使っていく。
「――――っ!」
手から黴が増殖するかのように、真っ黒な靄のようなものが吹き出していく。
私の炎と違って、それは大きな盾のような形をしていた。
『闇の力』と、ティーダはそれを呼称している。
使徒たちと考えた名前で、私のほうは『火の力』だ。
その二つの力を使えるようになって、ある程度の制御ができるようになったあと、自然と私たちは比べ合いをすることになっていた。
――そして、いま、その決着がつく。
燃え盛る火炎が『闇の力』を溶かしきったところで、私は『火の力』を消しながら宣言する。
「私の勝ちですね」
対抗意識のままに微笑んで、それにティーダは目をそらしながら不平を漏らす。
「……この競い合い、相性があると思わないか? 燃え盛る火炎を相手に、私は影だ。どうしても、そちらに主導権を奪われる」
「無敗の決闘代行様らしくない物言いですね。ああ、元無敗でしたか。いましがた真正面から私に負けてしまいましたので」
「くっ……!」
ティーダは言い返さずに呻いた。
そこそこ悔しそうだ。ただ本心は別だろう。
「冗談です。こんなものは決闘じゃありません。言えても模擬戦くらいでしょう。……ただ、それでもあなたは勝ちを本気で狙っていました。そこのそれ、力がぶつかったときに散らばった泥みたいなやつ。まだ動かせるんじゃないですか?」
私は地面に付着した『闇の力』の破片みたいなものを指差して、油断して近づかないことをアピールする。
そもそも決闘の作法を知らない私にとって、勝ち負けの宣言など無意味だ。本当の争いで重要な奇襲を警戒して、その泥こそ本命だとカマをかける。
「バレていたか。やれやれ、やはり君には隠し事ができないな」
ティーダは肩を竦めて、観念するかのようなポーズを取る。
嘘だ。
「その余裕……。いま、バレていないことを安心しましたね。ということは、まだ切り札は別にある。その種を隠し通せたことに安心している。これがバレないのならば、いつでも私に勝てるなって……。あの……、その癖、そろそろやめてくれませんか?」
出会ったときと同じような評価を、またされてしまった。
本当に嫌われる才能のある男だ。
私とアルティの『目』を侮られるのは、私にとって一番腹の立つこと――だが、以前よりは冷静に「ふふ」と微笑と共に受け入れることができた。
恐ろしい私の対応策をティーダが考えるのは護衛として当然だ。
職業柄、必要なことでもある。
それはそれとして、じっと私は睨みつけておく。こいつ相手ならどれだけ怖がられてもいいので、例の威圧感の訓練もしておきたかった。
それらを察しているティーダは溜め息をつきながら、目をそらし続ける。
「…………。……はあ、本当に相性が悪いな。というか嫌いまである」
「悪いだけじゃなくて、嫌い? ……ああ、なるほど。そもそも、あなたは真っ向から戦ったことはあっても、真っ向から勝ちにいったことがない? なのに『無敗』と噂されたのは、ファニアのほうでは自分好みの決闘だけをしてきたということでしょうか? 意外に好き嫌いの多い子供っぽいところがあるんですね?」
「…………っ、…………。……よし、もう君とは何も話したくないな」
「話してください。これでも、もう私たちは協力関係なんですから」
それにティーダは苦笑して「それはそれ。君だけ有利になっていくのに協力するほど、私はお人好しじゃない」と戯けて、降参のポーズで切り札だけは隠し通していく。
闇の深い人だ。『千里眼の巫女』とまで呼ばれた私を前にして、隠し事を成立させるのは尋常ではない。
流石は『無敗』の片割れ。……いや、おそらく『無敗』という二文字は、彼らの本質ではない。
例の異常な嫌悪に繋がる性質がティーダにはあって、それが『闇の力』を得てから更に深まっているのを感じる。
ティーダの身体には、薄い膜のような『闇の力』が常に張られている。
その『闇の力』の沼に沈み込むような感覚のせいで、私の『目』をもってしても未だ見通せなくて――
と、力だけでなく『目』や性質も含めて全ての切磋琢磨をしている私たちに、使徒シスが近づいてくる。
「不安定な『器』のほうが早いとは思っていたけれど……。まさかここまでとはね」
珍しく手放しに褒めている横には、使徒ディプラクラもいた。
……いつも通り、指導の際に使徒レガシィはいない。
「よせ。そう不安定不安定と言い過ぎると、向こうで見守っている主たち二人が不安に思うじゃろうて。『循環機能』が飛び抜けているといった言い方にせい」
「はいはい。……飛び抜けていると、力を得るときは本当に一瞬なのね。前のときと少し似ているのが不安要素だけど」
「一度『世界との取引』さえ成立してしまえば、あとは転がり落ちるように進むのが基本のようじゃな。肝心なのは、やはり最初じゃった」
「ただ、それでもあの羽根つきの子と比べると……。いや、あの子の最初は緊急も緊急だったものね。そういう状況も成長に関係があるのかしら」
そして、ぽろりと零れる一つの名前。
その「羽根つきの子」という名前が出る度に、ディプラクラの顔は険しくなる。
「シスよ。普通にやるのをやめたとはいえ、手順通りに慎重にという方針は変わっておらんぞ」
「分かってるわよ。いまは一万年前と違って、『魔の毒』で脆い生物ばかりだって、あの羽根つきの子から学んだもの。同じ失敗は繰り返さないわ」
「うむ。もう主と同じ種はこの世界にはおらず、似た『魔人』がいるのみ。これからは捜し出すのではなく、育てることをしっかり意識せねばな」
距離が縮まったからか、前任者がいたことを使徒はもう隠さない。
とはいえ深く聞こうとしても「前の羽根つきの『魔人』は強大な力に振り回されてしまったから気をつけろ」としか答えてくれない。
……こんな力、大きなリスクがあるのは当然だろう。
書物の知識通りなので、その答えには安心したまである。だから、いま大事なのは「緊急時であればもっと早く強くなる」という前例の存在だった。
「使徒様。悪いのですが、私はもっと急ぎたいです。緊急時のつもりで、もっともっと早く教えて頂けると助かります」
『火の力』を身に纏い、自身のやる気を熱量で表現しながら教えを請う。
「おぬしらは急ぐ必要がないはずじゃ。その為にも儂らは、この辺境にある平和な村を選んだのじゃぞ?」
つまり、前任者は大陸の中心に近い危険な戦場で見つかったということ。それでいて、この『火の力』に類似した力を持っている。となると、大分絞られてくる……。もう放っておいても、前任者の情報は集まるだろう。
なら、いまは自分たちのことに集中したい。
「聞けば、使徒様の寿命は非常に長いとのこと。たった数十年しか生きられない私たちとは時間感覚が異なります」
「それは分かっておる。しかし、十年もあれば、その『火の力』を確実に完成させるには十分な時間じゃ」
「私たちにとっては、十年かけて力を極めて終わりではありません。修得したあとに力を利用できる十年のほうが大事なのです」
「そうかもしれぬが、時間をかけて身に付けたほうがおぬしらの為なのじゃぞ?」
使徒に嘘はない。善意も感じる。
しかし、彼の言う「完成」や「私たちの為」が、私たちの思い浮かべているものと同じではないとも感じる。
どうにか説得を続けようとしたところで、思わぬ助け船がシスから出てくれる。
「ディプラクラ、私は彼女寄りの立場よ。ゆっくり成熟させていくとしても、基本の『代償』すら知らないのはむしろ危険と考えてるわ」
「知識は確かに必要じゃが……。まだ三日目じゃぞ?」
「というより、もう二人とも気付いてるのよ。……昨日の夜、既にやっていたようよ。いまの力の比べ合いでも、こっそりと手に何か握りこんでいたように見えたわ」
「なぬ」
無料で助け船は出してくれないようだ。
シスは自らの後ろ髪に触れながら、私に目をやる。
「あなた、髪を少し切ったわね。……他の使徒たちみたいに、私も気付かないとでも思った?」
「…………。ディプラクラ様は大丈夫だろうと思っていました。シス様相手には賭けでしたが、どうやら私の負けのようです」
「ふっふっふ。それはそうよ。ディプラクラと違って、私の感覚は何倍も鋭いのだから。特に『代償』の感覚において、この世界で私を超えるものはいないわ。……で、そっちは指に切り傷を作ってるのかしら? 二人が『代償』に選んだのは髪と血液ってところね」
使徒が三者三様の価値観を持ち、弱点を補い合っているというのは厄介だった。
シスの厄介な目敏さに観念して、隣のティーダも両手を挙げて、指の小さな裂傷を見せる。
「やっぱり。……でもこれは、私たちほどではないけれど、あなたたちも直感で自身に有利な『代償』を選べているってことね。そこだけは少し褒めてあげる」
賞賛されて、ティーダは『闇の力』の出所を認めていく。
「ありがとうございます、シス様。色々と試したところ、私には体液を使うのが適していると分かりました。中でも血液が『代償』と言われるものを特に発生させているように感じます。……ただ、そうしたとき『闇の力』が泥みたいに粘つきだすのが難点ですが」
説明するが、要点は隠している。
以前の試験で武器として使った瓶に、ティーダは大量の血液を溜めていた。それが彼の『代償』の真骨頂となるだろう。もう既に何個も隠し持っているのを私は見抜いて、その汎用性を羨ましく思いながら呟く。
「私も適当な体液が良かったのですが……。これでも女の髪ですし」
「逆に私が髪を少し焼べたところ、『闇の力』は大して膨れ上がりませんでした。シス様、この差は一体?」
私も血液で『代償』を試したように、当然ながら向こうも真似ていたようだ。
その仕組みの答えを、シスが自慢げに話す。
「まず、この世の全てのものが『取引』に使うことができるわ。けれど、何もかも平等で等価ではないのよ。取引相手の世界はもちろん、あなたたちの感じている価値によっても『取引』の比率は変わる。……要は大切に思う心。その心の重さが、そのまま価値の重さになるって聞いてるわ」
大切なものほど、重くなる……?
その表現から、私は商人と取引する際の天秤の動きを思い浮かべた。
つまりは値段という感覚でいいのか?
私は何かしらの価値あるものを支払って、等価分の『火の力』を買い取っているのだろうか。
基本的に、身体を通した『魔の毒』だけで小さな炎は作れる。しかし、大きな炎にしようとすると、毎日補充される『魔の毒』では価値が足りない。そこで大切な髪を支払う――すると、たった一本の切れ端だというのに、油のような莫大な火力を生める。
当たり前の話だ。
誰だって、自分は大事。自分の価値が一番高い。
おそらく、身体のどこかを『代償』にするのは、全生物で共通して高い値段が設定されていることだろう(ティーダは自分の髪を余り大切にしていなかったようだが……。破滅願望ありそうな性格してるから余り触れないでやろう)。
私は髪の類似品として、指の先の爪を見る。
もう試したが、同じ伸びるものでも爪では「美しさ」という価値が足りず、効果は薄かった――が、おそらく爪一枚を丸々ならば、爪の「利便性」を『代償』にしてそれなりの炎が生めると確信している。
先ほどのティーダの闇の盾くらいならば軽く貫くだろう。
そして、その周辺の皮膚を『代償』にすれば、もっといける自信もある。
さらに指そのものを含めれば、もっともっと。
腕も。肩も。心臓も。焼べれば焼べるほど、もっともっともっと――
誰だって自分は大切だからこそ、私は私を大切な切り札にできる。
ティーダの隠している切り札も、これと同じだと話は楽なのだが……。
探るための情報収集を私は使徒から続けていく。
「シス様。大切という感情が大事ならば、それは物質的なものだけでなく、精神的なものも含んだ価値ということになります。無形のものでも『代償』になる可能性はあるのでしょうか」
「…………。……可能性は高いわ。けど、まだ分からない。『代償』の条件がどこからどこまで及ぶのかは、私たちもこの地上で確認中のところなのよ」
まさかの嘘じゃない。
使徒という種族が、感情という分野を苦手にしていると自覚しているのだろう。
そう言葉を濁されたとき、ふと――
私は自然と首を動かしかける。
誰だって、自分が大切。
もし例外があるとすれば、そんな私をずっと見守ってくれていて、いま近づいてきている――
「…………っ」
その人を意識しそうになって、すぐに首を振った。
考えることすら嫌だった。
そういう選択肢は要らないと頭で分かっていても、意識は次へと向かってしまう。
私の背中の先。
生まれ故郷そのものを肌で感じとって、ぞくりと悪寒が走る。
それはティーダも同じようで、苦虫を潰したかのような声を出していく。
「無形の価値さえも『代償』にする可能性は高い……。以前、ディプラクラ様が悪魔の権能と仰った意味が、いまはっきりと理解できました。まさしく、これは伝承の悪魔との取引とよく似ていますね。いや、一万年前から存在していたのならば、こちらが大本なのでしょうが」
「そうイメージしたがゆえに、おぬしは血を供物のように『代償』にしやすいようじゃな。……そのイメージの出所は、ファニアの研究院で得た知識じゃな?」
「はい、ロミスの家にある古書にもそういった記述がありました。私は分家の生まれですが、書庫に入れる権限を持っていたので……。聞きかじりで『世界』を知っていれば知っているほど『代償』がややこしくなるというのは、どうやら当たりのようです」
「研究院の影響で血の価値を重くしてしまったか。おぬしの本来の大切なものはもっと別にありそうなのじゃがな」
「……はい」
私と似たような経緯で、ティーダは過去の自分を後悔しているようだった。
しかし、鍛錬の終わりを察して近づいてきていたロミスが、それを否定するように大きめの声を出す。
「すでに読んでしまったものは仕方がない。これからティーダは血をメインに『代償』を繋げていこう。その為にこれからは、より書物を読み込み、先人の叡智を活かしていくのがいいだろう。……例えば、これだな。ネイシャ家の記録によれば、支払われた価値によって、発生した『魔の毒』の性質は変化すると書かれてある。その『代償』とやらを深く理解すれば、さらに『魔の毒』を上手く操ることに繋がるんじゃないのか?」
その手には紙束がいくつかあって、それを証明するであろうページが開かれていた。
辺境の地の視察でも持ち込んでいるなんて勉強熱心なのだろう。という感心よりも先に、それが地下室などで私がよく書き記しているやつそっくりなことに驚いた。
遠目だが、文字の羅列の癖が似ている。
つまり、私と同じ発想でもって、私よりも先にやって、私よりも精度が高く、私よりも長い期間で残している人が、ファニア領にはいる。
よ、読みたい……。
じっとロミスを見つめる。
「も、もちろんっ、そちらのお嬢さんにも同じことが言えるだろう。先ほどアルティさんと話をしているときに聞いたが、こういった記録を読むのが君は好きなのだろう?」
すると彼は少し怯えたように、隣のアルティに助けを求めるように目をそらした。
「あっ、はい! ありがとうございます、ロミス様! おそらく、マリアちゃんも頭でっかちで『代償』というものが偏っていそうなので、それをお借りして調整させてください! 喜ぶと思いますよ!」
「……ああ。君もよく読んで、彼女の手助けをして、早めに調整してくれると助かる」
アルティが諸手をあげて喜ぶと、ロミスは「他にもあるから、あとで君たちのところまで届けよう」と約束をしてくれる。
すると、アルティはその喜びのままに「可愛い作戦成功っ」といういつかの与太話を口につつ、私のところまで駆け寄ってくる。
「ででで、ということでー。マリアちゃんの炎の性質も色々と試していきたいねー」
「賛成。……ちなみにアルティから見ると、私の炎ってどんな風に感じてる?」
いましがた、ついロミスに『目』を向けてしまったのを反省しつつ、私は顔を少し伏せながら聞く。
「もし性質を言葉にするなら、前に言っていた『脅威』ってやつかな? いや、んー、正確じゃないかも。『目』の延長線としての『監視』? 『監視』がいつでもそこにあって、おまえを見張っているぞーって脅し照らすような炎かな?」
「お、脅し照らす……。私でも呑み込みやすい表現、ありがとうね」
つまり、いましがた私は、ロミスにおまえを見ているぞと脅してしまったようだ。
その性質を消す必要はないが、変えるとすれば何が良いだろう。
首を傾げる私の前ではアルティが楽しそうに「いつでも『暖かい』」「ずっと『安心』」「いつだって『安全』」「疲れたときの『癒し』」といった提案をしてくれる。
「それは私の中にある炎のイメージにないかな」
「私にはあるよ。マリアちゃんがそんな感じなんだから」
嬉しい。ありがとう。
そのアルティの一言で、途端に出来るような気がしてくるから不思議なものだ。
ただアルティには悪いが、いま必要なのは炎が本来持つ危険なイメージの強化だろう。
それは例えば、『熱い』『燃やし尽くす』『取り返しが付かない』といったイメージ。その果てに、いつかは……。
「――いつか、これを私は《消えない炎》にしたい」
おそらく、『結界』を作るにしても戦いにおいても、その炎の性質が最強。
制御できれば、唯一無二の力を得ることになるだろう。
という私の感覚と自信に、隣の男も張り合ってくる。
「では、私のほうは《消えない闇》を目指そうか。どこまでも膨らんでいく闇というのは私の抱くイメージにも合っている」
その情けない発想に私は呆れながら顔を向ける。
私に見られているのは分かっているようで、ティーダは目をそらしたまま言い訳を重ねる。
「別に真似てもいいじゃないか。というより、いまは協力し合って研究して、互いに成長していく段階だろう」
「ええ。だから、これは助言の視線です。私たちは似ていますが、決して同じではありません」
模倣は間違っていると忠告する。
途端、ティーダはこちらに顔を向けて、真剣な面持ちとなる。それが『目』の力によるものだと察して、短く「聞こう」と教えを請う。
「戦いを主眼に置くなら、目指す性質の終着はどちらも『消えない』でいいでしょう。しかし、まずその戦いそのものに、あなたは向いていません。……おそらくですが、あなたはそもそも自分の人生で「消えない」や「消えたくない」と願ったことがない。むしろ、いつか闇のように溶けて「消えてしまいたい」とまで思っている」
私は悪癖である無遠慮な人物評をもって説明していく。
いつもなら絶対に好感を得られない早口の決めつけだったが、ティーダは有り難そうに頷き返す。
「否定しない。確かに、消えていた方が有利だろうなと思うことがよくあった。モンスターや君と戦っていても、まず身を潜めることが頭に浮かぶ。私は生まれながら、そういう性質なんだろう」
「別にそれは卑怯者の戦い方ではありません。私だって狩りで最初に行う正攻法ですから。その上で、その性質のみを伸ばすのがあなたの一番の近道なのです。言葉にするならば、『闇に紛れる』『影に潜む』『暗がりに這入る』あたりのイメージでしょうか。それらの力を修得したあとに、いつか最終的に『消えない』という結果に至ればいいんです」
「なるほど。そうか、順番があるのだな、鍛錬というのには」
一方的な提案を、あっさりとティーダは呑み込んだ。
協力して成長していくという言葉は本当のようで、続く助言の「だから、あなたの力を濃く厚くするのではなく――」にも「君と違って、まずは薄く広くか」と素直に従ってくれる。
そして、ティーダが試行錯誤をしては、それを眺める私にも新しい発見が生まれて更に火の力を強めていく。
手放しで褒められる良い相互関係だろう。
これを続けていけば、二人は揃ってどこまでも強くなれる。
その順調さに安心しつつ楽しさすら湧いてきたところで、視線を感じて私は振り返る。
ロミスが私に微笑みかけていた。
「お嬢さん、私にも何かしらの助言を頼みたい。どうやら、君の『目』は誰かを導くことに長けているようだ」
最も立場が下である私相手に、下手に願い出られる。
いま私はロミスに睨まれた……わけではないはずだ。
もしあったとしても、先ほどの私と同じで「私のアルティと勝手に仲良くしやがって……」といった系の焼きもちに近いものだろう。
ロミスの心は分かってはいるが、一応『目』でしっかり見て答えを出す必要があるだろう。
相手は貴族。
決して間違いの無いように、慎重に受け答えをしていく。
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本編になかった魔力性質の話を多めにしたものの……。後日談は説明中心なので、やはり本編の焼き直しが多いのが反省点ですね。
ちなみにアイド先生は後天的に優秀な先生ですが、アルティマリアさんの先天的に反則な先生には指導力で敵いません。アイドのあらゆる数値で他の『理を盗むもの』に劣っているという設定は覆せません、が先天的な反則は長続きしないので、アイド先生のほうが最終的には良いという設定。




