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day115(トカニ村)


 連絡線への懸念から前線部隊の前進を二日間停止させ、補給を行った。

 補給が届き、騎兵旅団の配置転換が完了すると、連絡線について差し迫った心配をする必要はいったんなくなった。

 そのタイミングで、前線から一つの提案が届いた。


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東部方面軍司令部


 「前線から南部王国第1軍団経由で、最終目的地の候補が来ました」

 「どこだ」

 「トカニ村です」

 「……すごく遠いな。前線は本気でこんな目標が実現可能と考えているのか」

 「本気のようです」

 「根拠は」

 「魔物の組織的な抵抗がほとんどないこと、このまま前進すれば補給の問題さえ解決できれば到達可能という判断のようです」

 「補給の問題さえ、か」

 「はい」


 司令官は地図を広げ、現在の前線位置からトカニ村までの距離を指でなぞった。


 「これは方面軍単位で善し悪しを決められないぞ。補給と増援について参謀本部に確認しよう」

 「増援についてですか」

 「そうだ。ここまで前進するなら、東部戦線全体の作戦計画の変更が必要になる。今まで何だかんだで投入していなかった戦略予備を投入する場面なのかもしれない」

 「そこまでですか」

 「補給計画もセットで見直しがいる。もしかしたら南部戦線とのすり合わせが必要になるかもしれない」

 「実現可能なんでしょうか」

 「そこは参謀本部に決めてもらおう。私の手に負えん」


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北部王国軍参謀本部


 方面軍からの照会文書は、議論の入り口としては十分すぎる内容だった。

 「進攻作戦の継続可否も含めて話し合いたい。この際、階級も肩書も問わない」という参謀総長の言葉から、その日の議論は始まった。


 「補給計画的にはだいぶ怪しいです。後方が仮に襲われなかったとしても、そこまで戦線を伸ばして通常の補給活動ができると言い切れません」

 「補給用人馬の調達もぎりぎりです。前線に送る飼葉と補給部隊が使う飼葉が同量に近づきつつあります。ほかにここまで極端なことになっている物資はありませんが、なんとも」

 「予備部隊の投入は当然そうなるでしょう。ただ、予備部隊を投入すれば万事解決という作戦でもないと思いますので、その次の計画も必要です」

 「保留にすると機会を失いそうですね。前線は速やかな返事を求めているかと思います。期待している返答をすることは難しいとも思いますが」

 「国王予備部隊の投入についてそろそろ陛下に打診するタイミングかもしれません。過去に投入について議論した記憶もありませんが、今回はそうもいきません」


 参謀総長はひとつひとつの意見を聞きながら、何も言わなかった。

 議論がひと回りしてから、ようやく口を開いた。


 「もう少し議論してから、とりあえず前進許可を出すかどうかの決を採りたいと思っている。数で決めるものではないが、多数意見はそれはそれで参考にしたい」

 「軍事顧問殿とはこのあと話をする。おそらく陛下の裁可をとることになるので、その際、予備部隊投入についてお伺いしたいと思う」


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第13旅団司令部


 上からの返事を待ちながら、旅団司令部では別の議論が続いていた。


 「軍団司令部から攻勢終結点をあらかじめ決めて連絡するようにと命じられている。さてどこにしよう」

 「トカニ村の話は聞きましたか」

 「聞いた。前線がそこまで行けると本気で思っているなら、止める理由もない。問題はそこまでの間に何があるかだ」

 「今のところ魔物の組織的な抵抗はありません。このまま続くとは言いませんが」

 「続かなかったときの話をしておきたい。こちらが前進し続けている間に連絡線を断たれたら、どうする」

 「退くしかありません。ただそのための判断を、いまの指揮系統のどこがするのかが不透明です」

 「それを軍団司令部に確認しておいてくれ。前進の可否より、退く判断を誰がするかの方が今は大事だ」

「わかりました」


 旅団長はしばらく地図を見ていた。

 トカニ村という名前には、以前聞いたことがあるような気がした。もっとも戦争が始まってから地名を気にしたことはほとんどなかったので、気のせいかもしれなかった。


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