day113(参謀本部への報告)
夜中に届いた東部方面軍からの急報に、参謀本部当直の幕僚は首をひねった。
内容は事実を淡々と記しているだけだった。その淡々さが逆に落ち着かなかった。
翌朝、参謀本部では通常より早く議論が始まった。
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北部王国軍参謀本部
「第21旅団の前進についてです。方面軍からの報告では、魔物の撤退を追跡した結果、一日で過去五日分を超える進撃になったとのことです」
「魔物が自分から撤退した、ということか」
「そのように読めます。なぜかは不明です」
「人的被害は」
「ありません」
「第13旅団は動いていないのか」
「はい。第21旅団のみです」
しばらく誰も口を開かなかった。
「補給状況は」
「伸び切っています。方面軍は騎兵部隊の配置転換で連絡線を手当てしようとしていますが、それで十分かどうかは確認中です」
「前線からは増援の要請は来ているか」
「来ていません。そこまで深い進撃を想定していないようです。戦闘がほとんど発生していないので、部隊の摩耗もありません。武具の補給要求も驚くほど少ないです」
作戦部長が口を開いた。
「以上のように、前線は想定外の快進撃を続けています。当初方針に従い、進撃について広い権限を前線部隊に与えていて、そこに異論はないかと思いますが、増援部隊を出すかどうかに関わってきます。そろそろ一度、今後の方針を議論する必要があるかと思います」
「南部王国第1軍団の三個旅団を事実上の増援として出している。この上さらに増援部隊を出すと、戦線間のバランスが崩れる。戦略予備に手を付けることにもなる。それでもというなら、候補は第四軍団から一個か二個旅団、第五軍団から一個旅団を想定できます」
「前線からの要請がない以上、前線はここまで深く進撃することを想定していないのだろう。部隊の状態からしても、少し補給して休めばそのまま進める状況に変わりはない」
「増援を出す必要はないが、出せる状況ではある、ということか」
「そういうことです」
参謀総長が手元の地図を一度見た。
「補給用人馬の問題があります。前線に送る飼葉と、補給部隊が使う飼葉が同量に近づきつつあります。他の物資はまだ余裕がありますが、これだけが急迫しています」
「騎馬部隊の配置転換も重なっているからな」
「はい。早急に手を打たないと、補給そのものが滞ります」
「わかった。補給担当に解決策を出させてくれ。それが出てから増援の判断をする。引き続き動向を注視する。方面軍には現状維持と伝えておけ」
その日の夕方、補給担当からの回答が上がってきた。
結論は一行だった。「現在の進撃速度が続くなら、十日以内に前線への補給が困難になる」。
参謀総長はその報告書を読んでから、少し考えて引き出しに入れた。
前線が今のペースで進み続ければ、嫌でも次の判断を迫られることになる。
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「判断しない」女王エリザベータ 〜前例がないので規定を作ります。様式第1204号、発動〜
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