day112(追跡)
更新を再開します。
前回から間が空きましたので、ep.1から読み直してくださっても構いませんし、ep.122から読み進めていただいても構いません。いずれにせよ戦況は変わっていません。
執筆にあたり、生成AIを補助として使用しています。プロット管理・文章の壁打ち・草稿生成などに活用しており、最終的な内容の確認と投稿は作者が行っています。
軍団司令部の方針に従い、翌朝、先遣隊は再び前進した。
「もう一日だけ、慎重に」という言葉を旅団司令部から受け取った先遣隊長は、昨日のトガリ村の戦いで出た負傷者のことを念頭に置きながら、前方の偵察を再開した。
接触は早かった。
村の外れに差し掛かったところで、前方の草原に魔物の姿を確認した。数は昨日より多い。先遣隊長は部隊を止め、旅団司令部に第一報を送った。返事を待った。待っている間に、魔物が動いた。
後退していた。
ゆっくりと、しかし確実に。逃げているのか、誘っているのか、先遣隊長に判断する根拠はなかった。ただ、逃げる敵を眼前にして足を止め続けるには理由が必要だった。旅団司令部からの返事はまだ来ない。
先遣隊は前進した。
魔物の撤退速度は速かった。先遣隊もそれに合わせて速度を上げた。ぴったりと後ろについていく形になった。後方で本隊を指揮していた大隊長は、先遣隊が加速していくのを見て、一拍置いてから追従を命じた。一つの大隊が動くと、隣の大隊も動いた。
気づいたとき、旅団全体が前進していた。
なまじ接敵している状態での前進だったため、休憩をとる間合いがなかった。遅い部隊は置いていかざるをえなかった。それでも誰も立ち止まらなかった。
旅団長が「追跡停止」の命令を出したのは夕刻のことだった。伝令が走り回り、各部隊が足を止めたとき、誰もが今日一日でどれほど進んだかに気づいた。
過去五日間の進撃距離を、一日で超えていた。
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第21旅団司令部
「報告を整理します。先遣隊が魔物と接触。魔物が撤退を開始したため追跡に移行しました。本隊もそれに続く形で全体が前進しました。追跡打ち切りの命令は夕刻に旅団長から下達されています。接触から停止まで、主だった命令は追跡打ち切りの一件のみです」
「大隊長からの事前の報告は」
「ありません。判断の速度に報告が追いつかなかったかと」
「第13旅団は」
「先遣隊も本隊も動いていません。ただし我々の動きは把握しているはずです」
「軍団司令部への報告は」
「旅団長が今夜中に送ると言っています。内容を確認してから私にも見せてほしいとお伝えください」
「わかりました」
少しの沈黙があった。
「怒られますよね、これ」
「怒られる。ただ撤退命令まで出るかは微妙だと思う」
「なぜですか」
「こちらが何かしたわけではないからな。言い訳が立つ」
「……なるほど」
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第13旅団長と第21旅団長
「聞いたよ」
「こっちが一番驚いている。誰も止める間がなかった」
「怪我人は」
「なし。それだけが救いだ」
「うまくいった、とはならないのか」
「ならないと思う。慎重に前進しろと言われていたからな」
「まあそうだな。どうするんだ」
「軍団司令部の判断に任せる。うちにできることは何もない」
「停止命令は来るか」
「来ると思う。問題はどこで止まれと言われるかだ」
「昨日の位置まで戻れと言われたら」
「嫌だとは思うが、命令なら従う」
「まあいわば事故だし、怒っても仕方ない話だな」
「明日の朝には返事が来るだろう。今夜は休め。部下もだいぶ疲れているはずだから」
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南部王国第1軍団司令部
「第21旅団からの報告です。一日で五日分を超える進撃、とのことです」
「……あの」
「お気持ちはわかります。一日だけ前進して様子を見ようというお話は伝えてあります。慎重にということも、連絡線を気にしているということも伝えました。その結果がこうなりました。どうしましょうか」
「状況を整理してください」
「はい。トガリ村の戦いで二個旅団が離れてしまったため、事後措置を前線に一任しました。軍団としては翌日の前進を許可し、慎重にという条件を付けました。第21旅団は慎重に前進した結果、追跡の形になり、止まることができなかった。第13旅団は動いていません」
「前線部隊には」
「そこから一歩も動くなと伝えました。ただ補給線が伸び切っているのは間違いありません。後退させることも選択肢に入ります」
「方面軍司令部に確認します」
「私から連絡しましょうか」
「いえ、これは私から話します。言い訳も私がします。……あーもう」
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東部方面軍司令部
「夜分に申し訳ありません。第21旅団の件です」
「聞いている。どういうつもりか説明してもらえるか」
「言い訳は申し上げません。一日で五日分進んでしまいました。現在、前線部隊には停止命令を出しています。ご指示をいただきたく」
少しの間があった。
「後退させるか、そのまま維持かだな」
「はい。ただ現地の補給状況と連絡線の問題を考えると、早急に手を打つ必要があります」
「騎兵旅団の配置転換は間に合うか」
「急げば明後日には動けます」
「動かせ。後退の判断はそれを見てから決める。参謀本部への報告は朝一番でする。今夜はこれ以上動くな」
「わかりました」
電話を置いてから、東部方面軍司令官はひとりで地図を広げた。
うれしいことではあった。ただ、後方がどうなっているかを考えると、素直に喜べなかった。予備部隊はいない。参謀本部に打診しても、前線に来るのはだいぶ先になる。
とにかく今夜は何も起きないでほしいと思いながら、地図を畳んだ。




