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最弱召喚者は這い上がる(凍結中)  作者: 多田野箱
地の底編
3/35

さようなら地球こんにちは異世界!

「あぁ今頃みんな何してんだろうなぁ…」


 これが現在、ほの明るい緑色の光の中胡座を掻きながら頬杖を付き花咲広成の心の中の大半を占めている感情である。

 そんなぼやきをこぼす広成が今いるのはエクスペルという異世界のベルラーラという国のはずれにある一般的に魔宮ダンジョンと呼ばれる場所のかなーーーーり下で『死神の渓谷』と呼ばれる危険な場所だ。


 では何故こんなことになったのか?始まりはいつもどおりの日常だった3週間とちょっと前のこと


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『これからあなた達は学校の生徒全員で異世界に移動してもらいます』

 

 教室にこの男とも女とも言い難い中性的な声を始まりにざわめきが起こる。しかし昼休みにこのような放送をされたらざわめきが起こるのは当然の反応と言えるだろう。

 そんな中クラスのまとめ役である阿笠文明あがさふみあきは「おいおい動揺すんなよ悪戯だろ?」とクラスのみんなを諭す。阿笠を含め生徒達は学校にチラホラといる不真面目な生徒の誰かが悪ふざけで放送をしたのだろうと思っていた。

 事実、以前にも馬鹿な不良たちが授業中に愛の告白を全校放送で行い盛大に失敗して、先生からきついお灸を据えられていたことがあった。ちなみに相手はこのクラスにいた女子である。名前は伏せておこう。


 そんな中広成は


「えっ?マジ?」


「これラノベでよくある異世界召喚じゃないか?」


「わ~wwじゃあ俺たち異世界行って勇者かよww?」


「俺らが?ありえねーだろww」


「激しく同意、あるなら勇者近くのサポート役くらいだろ」


 などというややふざけた会話を親友である長谷川、古市、白石、小林新こばやしあらたというお調子者でクラスのいじられ役と話し合っていた。ちなみに上から長谷川、広成、白石、小林、古市の順だ。

 しかし、その声はスピーカーから流れてはくるがイタズラの放送などではない全く別のものだった。


『異世界の者が勇者を召喚する儀式を行いました。そこで選ばれたのがあなたたちです。ここまでくればもうわかりますね?今からあなた方を異世界に召喚します』


 クラスの大半が馬鹿言ってるなとそれぞれの動作に移ったその時教室の床に魔法陣が現れ、クラスメートの全員の視界が白く塗りつぶされ悲鳴を上げる、しかし次の瞬間には教室は無音となった。

 光はすぐに消えたがクラスの者は皆目をギュッとつぶり顔をかばっている。もちろん広成ものその一人に入っている。何やら空気が変わったような気がして目を開いてもすぐには瞳孔が光量を調節してくれない。

 それでも徐々に視界が開けてくると周りからざわざわと騒ぐ声が聞こえ始め、広成も慌てて周りをキョロキョロと見回し始めた。

 まず見えてきたのは見慣れた教室ではなくかなり大きめの広場、そして王冠をかぶりヒゲを胸まで伸ばした優しそうな顔をしているこれまたおとぎ話によく出てくる国王の格好をした初老の男を中心とした白く長いローブを着ているぱっと見でも20~30といる事が分かる男たちの姿だった。

 その初老の男性が四歩前に出て片膝をつき、外見によく似合っている深く落ち着いた声で広成たちに話しかけ始めた。


「ようこそおいでくださいました未来の英雄とその同胞の方々。歓迎いたします。私はこの国の王をしております、ムハマド・エルトレートと申すものです。以後お見知りおきを」


 そう言ってムハマドは柔らかな笑顔を見せる。するとなぜだかわからないが無性な安心感が生徒の胸に流れ始めた。

 広成には経験上からその表情がどこか不自然に見えたが、まだ何があるかわからないので一応は…程度に心にしまっておいたことは余談である。それよりなによりこんなにいきなりの事で頭がどうにかなりそうな事の方が優っていたからということもあっただろうが…


~~~~~~~~~~~~~~~~


 現在、広成たちはあの広場から場所を変え、20メートルはありそうな長いテーブルが3つ並んだ50メートルほどの大広場に通されていた。まったくもって金の無駄使いだと思ったのは広成だけではないだろう。

 道中見ていた部屋の中でも一番広いんじゃないだろうか?という疑問は生徒の心の中で幾重にも重なっている。

 なぜここに通されたかは簡単だ、教皇のムハマドと名乗った男性が「説明は場所を変えて行います」と言ったから。ということだけだ。

 その道中みんながパニックにならなかったのは今の状況を理解できていないこととカリスマ性あふれる小司行道がまとめたおかげだろう。さすが先生からも纏める力は教師よりも教師らしいとちょっと複雑な顔で言われるだけはある。

 ちなみに彼は中学校では生徒会長で広成とは小学生の頃からの腐れ縁だ、中学までは結構な頻度で話をしていたのだが、高校に入ってからは急によそよそしくなってしまっている(主に広成のオタク化が原因)

 広成等の予想だと今この状況でまとめらている小司が勇者になるだろう。というかそれしかない。と考えていた。

 全員が広間に入ると同時にメイドが大小様々な料理を絶妙なタイミングで運んできた。

 中には耳が尖った美女もいるので男子の大半は目線がメイドに釘付けだった。まぁそれを見た女生徒たちの視線はかなり冷ややかなものだったのだがそれに気づいたものは少ない。

 ムハマドはあらかじめ席に着いており、メイド達が料理や飲み物を準備し終わるとゆっくりと話し始めた。


「さぁ席にお付きください。一から説明をさせていただきます」


 そう言ってクラスのみんながメイドやらなんやらに促されて席についたのを確認するとムハマドは説明を始めた。その話はとてもファンタジーで理不尽で厨二がいたら手を離して喜びそうなものだった。


 要約するとこんな感じだ。


 まず、この世界はエクスペルと呼ばれていて、魔族、人間、獣人、亜人、精霊の5つの種族が暮らしており、魔族は北の大陸、人間は西の大陸、亜人や獣人は中央の大陸で「デミフルス」という国を作ってそこで暮らしている。

 今出てこなかった精霊はどの大陸にも割といるそうだが視える人と視えない人がおり、視ることのできる人しか存在を確認することができず、精霊魔法というものを使えないという。ちなみに広成は見えない人である。

 エルフやドワーフといった常日頃から精霊の力を使う者、「精霊の民」も存在しており、先程広成らが見ていた耳の尖った美女がそうであったらしい。

 話を戻すと人間と魔族は互いに仲が悪く、もう何千年と言われるほど長く戦争をしているという。

 人間は数とスキル、受け継がれてきた知恵と技術で、魔族は個々の魔力が強く、自分たち魔族にしか使えない強力な魔法で対抗していたらしい。

 ここ何十年は戦争等の目立った戦いは起こっていなかったが、最近魔族が新しく魔物を使役することができる魔法を編み出したというところから話が見えてきた。


 魔物とは魔石という独自の器官を体内に持った動物のことで、野生動物が何らかのきっかけによって変質したのではないかと言われている。が、まだいろいろと分からないことがある生物だという。

 そんな魔物は今までは上級魔族ですら5体も従えるのがやっとだったが今では下級魔族でも10体は余裕で従えられるらしく、上級魔族では何と50体もの魔物を従えているという。

 魔法と言われてもピンと来ない生徒も途中でムハマドが最も簡単な火の魔法をみんなの前で行い、確証を持てたと共に初めて見る魔法に「おお!」と小さく生徒の間から歓声が上がる。


 ここまで来ると大体の者が事情は飲み込めた。


 つまりは人間は数で対抗していたがその数を覆すことのできる魔物の使役によって人間のアドバンテージがなくなり窮地に立ったため、広成達異世界人を勇者として呼ぼうということになったらしい。

 ここはここで事情があるがこちらにもそれぞれ事情がある。誰にという訳でもなくなんとも理不尽な話である。


「あなた方を召喚してくださったのはゼナド様です。我々が崇める守護神で創造と慈愛の神と言われています。ゼナド様は私たちに勇者を呼ぶ準備をしなさいと神託をくださいました。おそらくゼナド様は我々人間がこのままでは滅んでしまうことを悲しく思い、それを回避するためにあなた方を呼ばれたのでしょう」


 その時のことを思い出しながら話しているであろうムハマドの話では人間の6割は守護神ゼナドを信仰している信者なのだという。他は土地神みたいな小さな神の集まりだ。


「あなた方異世界人は例外なく強力な力を有しているとされます。その力を使い、魔族を討ち滅ぼし、我々人間を救っていただきたい」


 ムハマドはそう言って深々と頭を下げる。しかし言い終わったその途端突然立ち上がり火のような勢いで講義を始めた人物がいた。委員長である阿笠だ。


「ふざけんなよ!!!さっきから聞いていれば何なんだ!!結局は皆に魔族とかいう奴らと戦争させようってことじゃないか!!そもそも俺等は帰れるのか!?一番大事なところが抜けてるぞ!!」


 阿笠は普段からキリリとしているがやるときはさらにやる奴で怒った時のギャップも凄く、正直怖い。そんな阿笠を「おぉ、阿笠がいつも以上に俺たちのために…」とありがたく思っていた広成たちだったが、次のムハマドの一言で場が凍りついた。


「帰れませんし、返せませんので、帰還は現状では不可能です。お気持ちは察しますが現在の我々では異世界の空間に干渉するような魔法は使うことができません、召喚はゼナド様が行ったので帰還に関してはゼナド様のご意思次第ということになります」


「そんな…」


 なんてこったいというように脱力し、へなへなと椅子に座る阿笠。それを聞いた生徒たちは口々に抗議の声を漏らし始めた。


「おい…帰れないって、どういう事だよ!!!」

「ふざけんなよ!!この世界のことなんかどうでもいいから返してくれよ!!」

「嫌よこんなの家に戻して!!」

「やだよ、なんでこんなことに…」


 パニックになり口々に帰りたいと叫び始める生徒たち、まぁまぁなオタクである広成たちはこういった創作物は何作か読んでいて(まぁここに来た時点でね…)と覚悟はしていたためあまり騒がなかった。無論心の中では感情が渦巻いてはいたが最悪なパターンである戦闘奴隷として扱われないだけでもまだマシか?と思っていた。

 パニックが収まらない中、いきなり小司が「皆、いったん落ち着いて!!」と一際大きな声で叫んだ。その声に生徒たちは話をするのも辞め、小司に注目する。そして注目が集まったのを確認すると小司が喋り始めた。


「ムハマドさん、この世界を救えば日本に返してもらえるんですよね?」

「えぇ、はい、おそらくは…世界を救って頂ければゼナド様は貴方がたを元の世界に送り返すことでしょう。もちろん我々も協力は惜しみませんし返す際に恩賞は出来うる限り出すつもりです」


 若干しどろもどろになりながらも小司の質問に答えるムハマド。


「皆…俺は戦おうと思うんだ、ムハマドさんが今言った通り世界を救えば地球に返してくれる、それにムハマドさんの話だと人間は滅亡の危機にあるんだ。その中には当然俺たちより小さな子供も含まれているだろうし、第一俺は助けを求めている人を見捨てたくない。それに救わないと俺たちは帰れないって言うし。ムハマドさん、俺たちはこの世界ではすごい力があるんですよね?」


「はい、そのはずです。この世界の者たちと比べるならばあなたがたは少なくても2倍、最大で10倍もの力を持っていることでしょう。成長すればさらに高い値になるはずです」


「なら大丈夫、今までみたいに俺がみんなを引っ張って世界も皆も守って、全員で無事に家に帰ろう!!」


 握りこぶしを高く掲げそう宣言した小司。

 すると今まで絶望が心の大半を占めていた生徒たちの顔に希望と活力がみなぎってきた。小司を見る目がキラキラと輝いている。

 広成ら一行はあぁこいつが勇者だな、100%いや、1000%そうだわ。と一人考えていた。

 あちこちから「小司、お前がやるなら俺もやる」や「小司くんがやるなら私も…」などと賛成を表明する声が聞こえてくる。

 阿笠などの数名の生徒は「お前らやめろ!!、死んだらどうするんだ!!」などと反対の声を上げていたが、小司の作った空気の中では無意味だった。

 結局はなあなあで全員が戦争に参加することになってしまった。おそらく参加を表明した者の大半は戦争をするということが良く分かっていないのだろう。

 実際の戦争は血が飛び、死体がそこらじゅうに入り乱れ、傷を負った者、辛うじて生き残った者のうめき声や泣き声などが満ち溢れる『死』が常に付き纏う場所だというのを誰ひとり想像できていない。

 まあその実は守護神ゼナドが生徒に掛けた精神安定魔法に近いものが今しがた動き始めたということだがその事実に気づいている者は誰一人いない。


 広成はじっとその状況を見ているであろうムハマドに視線を移した。少しだけ、ほんの少しだけだが口角が吊り上がっている。

 このタイプの人物は広成が嫌悪している人種である。具体的に言えば本当の笑顔と遜色のない笑顔という名の仮面をかぶり、人を言葉巧みに誘導して最後にはこき使うという人種のことだ。現に小司を手玉に取り思うように動かしている。

 何か嫌な予感がどんどん当たってるなぁ、と思いつつも広成はこの現状から逃れる手段をまだ何一つ持っていなかった。



9/24登場人物変更

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