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異世界でハーレムスローライフを送りたかったのに、転移した世界が妖怪の世界だった 〜妖怪が怖い俺の周りに可愛くて美人な妖怪が増えていく件〜  作者: 平元桜央
人間と狐

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9/18

奈央は自由に生きていく

 しばらくして、奈央の力によって俺の体も回復してきたようだ。

 それでも、俺は奈央の膝の上から動かなかった。


 今ここで起き上がってしまえば、奈央がまた、いつものように俺から少し距離を取ってしまう気がした。


「なぁ、奈央」


「はい──」


 俺の髪を撫でていた手が、ゆっくりと止まる。


「もう、自由にしてもいいんじゃねぇか?」


 奈央は俺が何を言いたいのかすぐに察したようだった。

 もう、過去の罪で苦しまなくていいということ。


「奈央が何を思って人間滅ぼしちまったのか知らねぇけどさ……この一ヶ月、俺は奈央に十分優しさをもらったよ」


 毎朝、起きれば飯があった。


 俺が困ったら、何も言わずに助けてくれた。


 妖怪が怖くて、この世界で1人では何もできなかった俺を、奈央は支えてくれた。


「千年間も苦しんできたんだろ? じゃあ充分じゃねぇか。もう過去に苦しむ必要なんてねぇ」


「ですが──」


「人間の俺が気にすんなって言ってんだ」


 奈央の言葉を遮るように、少しだけ強い声で言った。


「懺悔のために、俺なんかの世話を焼かなくていい」


 俺は、できるだけ軽い調子で笑った。


「好きなところへ行って、好きなもん食って、好きなように笑って生きろ」


「零様──」


「俺のことは心配すんな。なんとか生きていくよ」


 これで、俺と奈央の関係は終わりだ。


 人間のために懺悔するんじゃなくて、自分のためにまっすぐ前を向いて生きていってほしい。


 それが、俺の願いだ。


「……少し、眠くなってきちまった」


 安心しちまったのか、疲れ切ったのか。

 それとも、奈央の膝枕の影響か、とんでもない眠気が、俺を包み込んでいく。


「ほんの、少しだけで……いいから、このままでいてもいいか?」


 俺が奈央に頼む、最後の世話だった。


 奈央はしばらく、何も言わなかった。


 やがて俺の髪を、壊れ物に触れるような手つきで撫でながら、小さく答える。


「はい──仰せのままに──」


 その声は、震えていた。


 良いもんだ。

 信頼できる誰かの側で眠るというのは。

 俺はこの世界に来て初めて、ようやく、ぐっすりと眠れる気がした。














 目が覚めたら、俺は自分の家の布団の中だった。

 きっと、眠っている間に奈央が運んでくれたのだろう。

 辺りを見渡しても、奈央は、もういなかった。

 静かになった家に、傍に誰かがいない現実に、寂しさを覚える。

 でも、これでいい。

 あいつはあいつで、自由に……


「ん?」


 俺はある違和感に気づいた。

 部屋の外から、匂いが漂ってきたからだ。


「この匂いは……」


 白米に味噌汁、焼き魚。

 そう、この一ヶ月で、毎日嗅いだ……


「……!」


 俺は跳ね起き、布団もそのままで部屋を出て、廊下を駆け抜けた。


「──おはようございます」


「……!」


 一番、聞きたかった声だった。


 そこには、いつもの人間姿の奈央がいた。

 揺れる一本の尻尾と、狐の耳。

 いつもと変わらぬ微笑みを浮かべて、台所に立っていた。


 昨日までと何も変わらぬ朝が、そこにあった。


「な、なにしてんだ?」


「いつも通り、です──朝食を、用意していました」


「いや違うじゃん! 言ったろ!? もう自由にしていいって! なのに何でまだここに……」


「──はい。自由に、してますよ? 私は、私の意思で──ここにいるのです」


 その声に、迷いはなかった。


「貴方と、共にいたいのです」


 その一言で、心にあった引っ掛かりが、消えていった。


 奈央のためを思って、送り出した。


 でも、いくら奈央のためと言っても、やはり、寂しかった。

 こうなる事を、心の底で、望んでいた。


 俺は思わず笑ってしまった。


「いいのかよ。俺にとって良い事しかないけど」


「はい──私にとっても、です」


 奈央も、小さく笑った。


 テーブルには二人分の朝食が並んでいた。


「さぁ──一緒に、食べましょう」


「あぁ」


 俺たちは食卓を囲む。

 一人で始まった異世界での生活は

 もう、一人ではなかった。


「「いただきます」」









 おい腐れ女神、見てるか?


 テメェの思い通りになるのは癪だが、いいだろう。


 この世界で生きてやるよ。


 ただ、ハーレムスローライフを送らなくても文句言うなよ。


 俺の人生は、俺が決める。

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