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異世界でハーレムスローライフを送りたかったのに、転移した世界が妖怪の世界だった 〜妖怪が怖い俺の周りに可愛くて美人な妖怪が増えていく件〜  作者: 平元桜央
人間と狐

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6/9

奈央は秘密をもっている

 土埃の中を歩く。

 靴底が、砕けたガラスや鉄片を踏みしめるたびに、じゃり、と嫌な音を立てた。

 奥の方から鬼どものざわめきが聞こえた。


「き、来やがった! あいつだ!」


 奥にいたのは、何十体もの鬼の軍勢。

 幽冥町でも会った緑鬼と黄鬼。

 そして、奈央の髪の毛を乱暴に掴んでいる、新しく見る黒い鬼。


「ほぉ、お前が人間か。実に1000年ぶりに見た」


「手を離せ」


「あ?」


「薄汚い手で、そいつに触れるなって言ってんだカス」


 俺の言葉に、黒鬼は頭に青筋を浮かべた。


 奈央は、本気で理解できていない様子だった。

 俺がここに来たことに。


「どうして──」


 どうして、助けに来たのか。

 それを聞こうと、奈央が唇を震わせているのがわかった。


「お前がいないと困るんだよ。誰が俺のために恐ろしい妖怪の町へ買い物に行ってくれるんだ?」


「え……?」


「お前は、俺の世話をしてくれるんだろ?」


「──」


 言葉が出ないらしい。

 だが、奈央の目から何かが零れそうになっているのが見えた。


 その時、黒鬼が俺の目の前に飛来する。

 巨体とは思えない速さだ。


「妖に対してビビリだと聞いていたが、とんだ誤情報だったらしいなぁ」


「黒の大兄貴!!!」


 緑や黄色の鬼と比べると、2倍くらい身体がデカい。

 俺の頭なんて、コイツの拳一つで簡単に潰せそうだ。


「どうも妙な力を使うらしいじゃねぇか人間。貴様のせいで、俺の子分が病院送りにされてんだ」


「そうかい。だがそいつは自業自得って奴だ。これからお前の身に起こることもな」


「人質に取られてるこの状況わかんねえのか? 妙なマネをすればお前の大切な女狐がどうなるかわかんねぇぜ?」


「やってみろ。手上げた瞬間テメェら全員皆殺しにしてやるからな」


 俺の発言にビビったのか、何人かの鬼達から息を呑む音が聞こえた。


「おもしれぇじゃねえの。俺に喧嘩を売る奴はもういねぇと思っていたからな」


 黒鬼は背中に担いでいた、馬鹿でかい棍棒を持ち上げた。


「お前ら手出すなよ。俺が殺す」


「やってみろよ。ノコノコと俺の前に出てきたことを、後悔しねぇようにな!」


 俺は黒鬼に向かって走り出した。


 黒鬼は俺の体を掴もうと手を伸ばす。


 ──単細胞が、その腕、木っ端微塵にしてやる!!


 俺は拳を握りしめ、その手に向かって拳を突き出した。


「うおおおおおおおおおおお!!!!」


 俺の咆哮とともに、拳が掌へと吸い込まれていく。

 そして……







 ポスっ








 耳に聞こえてきたのは、キャッチャーフライのような可愛い音だった。


「……はれ?」


 あんまりの力のなさに、俺どころか黒鬼も面を食らっていた。


「あ、言っとくけどね」


 久しぶりに腐れ女神が顔を出してこう言った。








「アンタに与えた力、一日一回しか使えないから」


「このアマぁああああああああああ!!!!!」









 俺は今世紀1番の咆哮をクソアマにぶつけた。


「当たり前でしょ? そんな簡単に世界を壊せる力、与えるわけないじゃない」


「じゃあさっき扉ぶっ壊したので終わりってこと!? なんでそんな大事なこと最初に言わねえんだこのミジンコ野郎!!」


「聞かれてないもの」


 ──ゴミが!!!


「クックッ……ガーハッハッハッハ!!!」


 頭上の方から笑い声が聞こえた。

 恐る恐る上を見ると、黒鬼が大口を開けて笑っていた。

 さっきまでの警戒心など、完全に消え失せている。


「何かしらねぇが、どうやらクソ雑魚だったようだな」


 黒鬼は、馬鹿でかい棍棒を肩へ担ぎ直した。


「死ね」


「どわぁあああああああああ!!!!」


 渾身の力を込めて棍棒を振り下ろされた。


 俺は間一髪で避けるが、鬼も追いかけてくる。命懸けの鬼ごっこが始まった。


「ほらさっきまでの威勢はどうした!」


「無理無理無理無理勝てるわけねぇだろ! 俺は超パワー持ってるって思ったから怖さも半減してたの! なんなら今漏らしそうだわ! あ、出る!」


 必死こいて逃げてる俺に並走するようにキモ女神がついてくる。


「そーよそーよ。皆殺しにするんでしょー?」


「クソ女神テメェどっちの味方だ!? どうにかしろ! 俺が死んだら自由研究とやらが失敗するんだろ!?」


「そしたらまた新しい人間連れてくればいいし。失敗したってデータも研究には必要でしょ」


「テメェの倫理観はどうなってんだ!? 元はと言えばテメェのせいでこの鬼どもに喧嘩売ることに……!!」


 鬼達は無理でもコイツだけはぶち殺したい。


 棍棒が横薙ぎに振るわれる。

 俺は頭を下げ、寸前で避ける。

 風圧だけで髪が乱れる。

 避けて避けて避けまくる。


「これが人間の恐れ……! 最高だ!!」


 黒鬼が歓喜の声をあげ、俺の体から、『黒い靄』が立ち上る。


「な、何だこりゃ!?」


 その靄が、まるで黒鬼の身体へ吸い込まれていくように見えた。


「──! 零様! 逃げてください!」


 奈央の叫びにも似た声が聞こえた。

 次の瞬間、黒鬼の筋肉が膨れ上がった。

 そして、再び棍棒が地面に向かって振り下ろされた。





「ぬ゛う゛ん゛っ!!!!!」


 床が爆ぜた。







 ドガアアアアン!!!


 大地そのものが抉られ、砕けたコンクリートが津波のように跳ね上がる。


 俺の体は、直撃していないにもかかわらず、衝撃波で吹き飛ばされた。


「がっ……!」


 背中から床へ叩きつけられる。

 肺の中の空気が一気に押し出された。


 ──な、なんだ……今の一撃……


 これが、妖怪が人間の恐れを妖力に変えた時の、力。

 最悪だ。

 俺が恐れれば恐るほど、コイツは強くなる。


 俺は震える腕を床に突き、立ちあがろうとしたその時。


「ぐっ!!」


 ふくらはぎに、激しい痛みが走った。

 焼けた針を何本も突き刺されたような痛み。


 見ると、俺の足に銃弾にでも撃たれたかのような穴が空いていた。


 抉られた地面の破片が、足に食い込んだのだ。血が、じわじわと床へ滴り落ちた。


 傷が熱い。

 燃えるようだ。

 ヤバい、本当に死ぬ。


「これで終わりだなぁ人間」


 黒鬼は視線を奈央へと移した。


「こんなによえぇんじゃ、あの女狐を人質にする意味もなかったな。殺すか」


「な……!」


「おぉ黒の兄貴! 俺にやらせてくれ! 女狐は俺の手でぶっ殺す!」


 鬼どもが俺が俺がと名乗りをあげる。


「ま、待て! 恨みがあるのは俺だろ!! 奈央は関係ねぇ!!」


「ほほぉ? 殺してほしくないと?」


 鬼達の笑い声が、倉庫内に響き渡った。


「この人間傑作だ!! まだこの女が自分の味方だと思ってやがる!!」


 黒鬼の言葉に、奈央の顔色が変わった。


「だ、だめ……」


 小さな声だった。

 首を振り、腕に巻き付いた鎖がカシャリと音を立てた。


「そ、それだけは……そのことだけは……言わないで……」


 今まで見たことのない顔だった。

 怯えている。

 鬼に捕まっても、さっき殺すと言われた時も、こんな顔はしていなかった。


 黒鬼の先の言葉を、聞いてはいけない気がした。






「コイツはその昔、お前たち人間を滅ぼした九尾の妖狐よ!」


「──」







 その言葉に、頭が一瞬、真っ白になった。

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