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異世界でハーレムスローライフを送りたかったのに、転移した世界が妖怪の世界だった 〜妖怪が怖い俺の周りに可愛くて美人な妖怪が増えていく件〜  作者: 平元桜央
人間と狐

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4/7

奈央は一緒にご飯を食べる

 奈央はいつも俺より早く起きている。


 朝ごはんの支度をして出迎えるためだ。


 俺がいつも起きるのは午前7時。

 奈央はそれより1時間早く起きる。

 奈央は今日も、6時に起きた。


「──おはようございます。零様」


「あぁ、おはよう」


 台所の入口で立ち止まった奈央は、目をぱちぱちと瞬かせた。

 味噌汁の湯気が立ち上る台所で、いつもは寝ているはずの俺が、フライパンを握っていたのだから。

 奈央の狐耳がぴくりと動く。

 そして少しだけしゅんと垂れ下がった。


「申し訳ありません──私のお料理に、なにか問題が──」


「あぁいや、そういうことじゃなくてだな……たまには俺も作ろうと思っただけだよ」


 そう言いながら最後の皿をテーブルへ並べる。『2人分』の、朝食だ。


「一緒に食べようぜ」


「───」


 俺の提案に、奈央はまた瞬きを繰り返した。


「──宜しいのですか?」


「なにが?」


「私は、その……妖──ですが……」


「いいんだよ。2週間もひとつ屋根の下で暮らしてんだ。流石に慣れたわ」


 奈央は一瞬だけ目を丸くした。

 その様子を見て、俺は肩をすくめながら席に座る。


「ほら、座んなよ」


「──はい」


 少しだけ躊躇っていたが、俺に促されて奈央も席についた。


「奈央の作ったヤツほど美味くはねぇがな。味には期待しないでくれ」


 俺が手を合わせたのを見て、奈央も手を合わせる。


「いただきます」


「──いただきます」


 用意したご飯はご飯に味噌汁、卵焼きと塩鮭。

 味付けは俺が前の世界でよく食べていた味付けだ。


 奈央はおずおずと味噌汁を手に取り、そっと口を付けた。

 湯気の向こうで黄金色の瞳が僅かに細められる。


「──美味しいです」


「そりゃよかった」


 口に合ったのか、彼女は次々に料理を口に運んだ。

 誰かに手料理を作ったことはないが、こうして喜んで食ってもらえるのは、案外嬉しいもんだ。

 もぐもぐと食べる奈央をじっと見ていると、ふと視線がぶつかる。


「あの──そのように、見つめられると……照れてしまいます」


「あ、あぁ悪い。妖怪も、人間とおんなじように食べるんだなって」


 背筋が伸びて、どこかのお嬢様のようだ。

 それに何より──


「箸の使い方、とても綺麗だ」


「──」


 俺の言葉に、奈央は一瞬、動きを止めた。


「え、ごめん、なにか気に障ったか?」


「いいえ──褒められることが、久しぶりでした、ので……えっと……」


 彼女は顔を逸らし、服の袖で見られないように顔を隠した。

 でも、頭から出ている狐の耳は、少し赤くなっていた。





「──ありがとう、ございます」


 ──なんだ、可愛いじゃないか。






 妖怪が苦手な俺だが、目の前の化けギツネと、なんとなく仲良くなれそうな予感がした。


 それから俺たちは、食事をしながらいろんな話に興じた。


 なんてことはない。

 俺の世界がどんな世界とか、料理の味付けはどうしているのだとか、好きなものはなんだとか、逆に苦手なものはとか。


 同じ食卓を囲み。

 くだらない話をする。

 それだけなのに、奈央が随分と身近な存在になったような気がした。


 飯も食い終わって、お茶を啜っている時のことだった。

 ふと、以前から気になっていたことが頭をよぎる。


「なぁ」


「──はい」


「この世界の人間って、どうして絶滅しちまったんだ?」


 奈央の手が止まった。


 湯呑みを持つ指先が僅かに強張る。


「それは──」


 言葉が続かない。

 余計なことを聞いてしまったかと思い、別の話題を切り出そうとするが、それよりも先に、奈央が口を開いた。


「──妖が、滅ぼしたからです」


「妖が……?」


「はい──今より遥か昔。この世界は人間たちの時代でした」


 奈央は静かに頷いた。


「古来より、人間が滅ぶよりもずっとずっと前から、妖は人々に『恐怖をもたらす存在』でした──なぜかわかりますか?」


「え、そんなん……そういうもんだからじゃないのか?」


 わからん、妖が人間を怖がらせる理由なんて、考えたこともない。


「──妖は人間を恐れさせることで、その負の感情から莫大な妖力を得ることができるからです」


「……そうなのか」


 妖力とは妖怪の力の源。


 もっている妖力が大きければ大きいほど様々な技が使える上に、身体能力は跳ね上がるそうだ。


 そうして人間から多くの妖力を得て力を増していった妖達は、人間達を倒し、この世界を妖のものにできるのではないかと考えた。


「そして今からおよそ1000年前──妖と人間の戦争が始まりました。激しい戦いでしたが、妖怪が勝利し──ここは妖怪の世界となったのです」


 部屋の中が静まり返る。

 茶の湯気だけがゆっくりと揺れていた。


「そっか……その戦争で人間は妖に滅ぼされて、絶滅しちまったってことか?」


「──」


 返事がない。

 奈央は俯いたまま黙っていた。


「……奈央?」


「──この話は、ここで終わりです」


 奈央はそう言って静かに立ち上がった。


「今日はご飯に誘っていただきありがとうございました──ですが、もう大丈夫です」


「え?」


 そう俺に言い放って、踵を返して居間を出ようとする。


「ど、どうしたんだよ? なんか気でも悪くしちまったのか?」


「違います」


 彼女は居間の入り口で立ち止まって、俺の方に振り返った。





「私のような妖には──貴方と、食卓を囲む資格など、無いのですから──」






 振り返った奈央の瞳は、少しだけ悲しそうな瞳をしていた。


「──少し外に、買い物に行ってきます」


 奈央はまた深く編笠を被り、外に出ていった。


「……」


 俺はしばらくその場に座っていた。


 過去に妖怪が人間を滅ぼしたことについて、思うところがあるのだろうか。

 俺を助けてくれるのも、罪滅ぼしをしようとしているからなのだろうか。


「……そんなこと、お前が気にする必要はないだろうに」


 俺はすっかり温くなった茶を飲み干した。

 その味は、さっきまでの朝食とは違って、少しだけ苦く感じられた。







 現在、幽冥町では、あちこちに鬼達が蔓延っていた。


「おい! あの人間はまだ見つかんねぇのか!?」


 黄鬼の怒鳴り声に、部下の鬼が肩を震わせる。


「へ、へい……探しているのですがなかなか……」


 鬼達は必死になって零を探していたが、この2週間、まるで収穫はない。


「チッ……まさかあの人間が絶滅した人間だったとは……」


 黄鬼はイラついてゴミ箱を蹴飛ばし、忌々しげに呟く。


「でもよ黄色のアニキ」


 緑鬼がおそるおそる口を開いた。


「あいつ青の兄貴を吹っ飛ばしちまうような変な技を使うじゃねーか。見つけてどーすんだよ」


「知るか! 俺たちは泣く子も黙る紅裂霧輪組だぞ! 舐められたらしめぇだろうがよ!!」


 ビビりながら聞いてきた緑鬼に黄鬼が喝を入れる。


「それに、いざとなったら黒の兄貴がぶっ倒してくれるわ」


「そ、そうだな。黒の兄貴が戦えばあんな人間一匹……ん?」


 鬼たちの会話が止まり、彼らの視線が一点に集まった。


「アイツは……」


 鬼達の視線の先にあったのは、見覚えのある、編笠だった。


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