彼らはもう一つの
俺たちは幽冥町を出て、目の前にはまっさらな荒野。
「黒天村はどっちだ!?」
「こちらです! 我々の足で何日かかかりますが……」
「それはいい、食料も持ってきた! ただ問題なのは、『間に合うか』ってことだ! 俺たちの速度じゃ、綺鴉羅の飛行速度には到底敵わな……」
言い終わる前に、奈央は俺を抱き抱えた。
お姫様抱っこ。
え? 逆じゃね? 普通。
俺がする側じゃね?
「しっかり捕まってください──」
奈央が足に妖力を溜める。そして、後方へと蹴り出した。
「うおおおおおおおおおおお!!!!!」
奈央は地を駆けた。風圧で顔が痛くなるほど。
焼かれて、廃墟となった町。
私が、父さんと共に、暮らしていた町。
『黒天村』
そこにあったのは、夥しいほどの、死体
烏天狗の、死体
乱雑に放置された、そこかしこに、石ころのように転がった、死体
隣に住んでいた、友人
お世話になった先生
そして、兵隊
刀を握る手が、震える
力が、入らない
違う
違う違う違う
きっと、生きてる
生きてるはずなんだ
あの父さんが、死ぬわけない
心臓の音しか、聞こえない。
呼吸できているのか、わからない。
歩くと、広場に着いた。
そこにあったのは
さらし首にされていた
父の、首、だった。
私は、声にならない叫び声を上げた。
私が、父の首を抱いて、涙を流していると
話し声ガ、聞こエた。
「お前なぁ、もう侵攻があったの何日前だよ。もう何も残ってねえって、金目のもんなんて特に」
「もしかしたらまだお宝が眠ってるかもしれねぇだろ。探せよ」
「俺はお前みたいに金に困ってないんだって」
2人
ハクロウ天グの、オトコタチ
オトコタチガ、わタシニキ付ク
「な、なんだ……お、お前、烏天狗の生き残りが……!」
「ひっ……! な、なんだこいつ、か、顔、悪魔……!」
ナニカイッテル
デモ、モウ
ドウダッテイイ
そこから数秒、記憶にない
「これが……綺鴉羅の、故郷……」
奈央は俺を抱えた状態で3日間、爆速で荒野を走り続けた。
睡眠も食事もとったが、流石に疲労が溜まっている。
それでも、止まるわけにはいかなかった。
村に入ると、酷い有様だった。
家は焼け落ち、そこらに焼けた死体が転がっている。野良犬どもが死肉を貪りっていた。
「き、綺鴉羅さんはどちらに──」
「とりあえず探すぞ。俺はこっち側を……!」
「うぅ……」
「……!」
歩き出した俺たちは、聞こえてきたうめき声に足を止めた、
そこに向かうと、翼が生えた白い狼が2体、倒れていた。
「……! 白狼天狗です──!」
「おい! お前らここに烏天狗の女が来なかったか!?」
「ひ、そ、そう、だ、あいつが、俺たちを……!」
「……!」
綺鴉羅が、コイツらを……!
「そいつはどこに行った!? 言え!!」
「お、おれたちの、隠れ集落に……! ここを、北東に進めば……た、たのむ、そんなこと、いいから、たすけ、て……」
俺は白狼天狗をその場に叩き落とす。
「ギャッ!!」
「奈央! 北東ってどっちだ!」
「こちらです! 急ぎましょう!」
綺鴉羅は、たった1人で白狼天狗たちに復讐するつもりだ。
1人で行ったって勝てるわけない。
怒りで我を忘れている。
──きっと、綺鴉羅の家族は、もう……
「頼む……早まるんじゃねぇぞ……!」
「さっさと起きろクソガラスが!」
「……」
耳障りな声が聞こえて、私は目を開けた。
目を開けた瞬間、視界に飛び込んできたのは、数多の白狼天狗の群れだった。
意識がしっかりとしてきて、身体中に受けた傷から痛みを感じる。
私は縄で縛られ、処刑台の上で磔にされている。
──私は……そうか。
捕まったのだ。
ここは、白狼天狗たちの隠れ集落。
父の首を見つけて、あの後すぐに、白狼天狗の隠れ集落に乗り込んで。
結局私は、何もできずに捕えられて。
痛めつけられて
羽も、足も腕も、縛られて。
こうして処刑台で、死を待っている。
処刑場から下を見下ろすと、多くの白狼天狗たちが私が死ぬ瞬間を、今か今かと待ち望んでいた。
民衆のような者たち。
大天狗族を守る近衛兵だった、精鋭部隊。
子供。若者。
誰も彼も、私を睨んでいた。
憎しみが心を焦がしていた。
処刑台に、3人の白狼天狗が上がってくる。
処刑執行人と、白狼天狗の長である、長老。
「まさか生き残りがいたとはな。全員消したと思っていたが……1人でやってくるとは、余程頭が煮て切っていたと見えるな」
長老は私の腹を蹴り飛ばす。
「ぐぅ……」
「グハハハッ! これで烏天狗は全てこの世から消え去る! 己の血を呪うがいい!!」
「御託はいい」
「……あ?」
もう、耳障りな音が聞こえるだけだ。
「殺すなら、殺せ」
「はっ! 言われんでもそうしてやるわ! おい!」
長老の声で、近衛兵どもが刀を抜き、私の首へと振りかざす。
「これで烏天狗の血は全て消える! 我々はついに……ついに!! 烏天狗どもに復讐を果たしたのだ!!」
長老の声に、観衆は歓喜の声を上げた。
目の前のアホみたいに騒いでいる奴らをみて、私は思う。
──私がいったい、コイツらに何をしたというのだ。
こんなに死を喜ばれるほど、コイツらは私を知っているのか?
父さんのことを、知っていたのか?
でも、もう、いいんだ。
父さんに会えるなら。
「……」
こんな最後の時に顔を思い浮かべるのは……あの2人だった。
不思議な、でも、とても温かい、化けギツネ2人。
零にも、奈央にも、黙って出てきてしまって。
でも、彼らを巻き込めない。
あんなに良い者たちを、我々天狗族の問題に巻き込んではいけない。
こんなドス黒い恨みと、怨念とは、無関係な場所で、平穏に暮らしてほしい。
──神よ
どうか、あの2人に、最大の幸福をお与えください。
あぁ……でもやはり
最後にサヨナラは言いたかった。
あの、2人に。
「おい」
その声は、とても静かに、しかし、観衆の歓声を掻き分けて、私の耳に入ってきた。
遠くから、2つの影が歩いてくる。
狐が2匹。彼らは、私の、もう一つの──




