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異世界でハーレムスローライフを送りたかったのに、転移した世界が妖怪の世界だった 〜妖怪が怖い俺の周りに可愛くて美人な妖怪が増えていく件〜  作者: 平元桜央
烏天狗と白狼天狗

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綺鴉羅は全てを思い出す

「ハァ……ハァ……」


 私の心臓が痛いほど鳴っている。


 もうすでに完治したこの身体は、止まることを知らない。


 幽冥町を飛び立ち、一目散へ黒天村へと向かう。


 腰に刺した天裂を、痛いほど握りしめる。


「……どうして」


 どうして、忘れてしまっていたのだろうか。


 あんなに、大切な人だったのに。


 滅んでなんていない。


 きっと、生きてる


 生きてるんだ。


「そうだろ……!? 父さん……!」








 私たち烏天狗は、はるか昔より大天狗様に仕えている。


 私の父は、天狗長様を守る近衛兵、その部隊の隊長だった。


 その昔、酒呑童子たちとの戦いでも数多くの武勲を挙げ、天狗という部族を守ってきた、凄い妖だった。


 母さんは、私が生まれてすぐに病気で死に、父さんは男手一つで、私を育ててくれた。


 父は強く、逞しく


 そして、なにより、私には優しかった。


 大きくなった私は、いつも自宅でソワソワと父の帰りを待っていた。


 夜、晩御飯の支度を整える。

 私と、父の2人分。

 美味しくはないかもしれないけど、父はよく、褒めてくれる。


 玄関の戸が開く。


「おかえり、父さん」


「ただいま」


 近衛兵隊長として、父は日々大忙しで働いている。平和になった世の中でも、主人を警護し、悪を裁く。


 この日は、実に1週間ぶりに家に帰ってきた。


「ご馳走を作ったよ。食べてほしい」


「おおそうか。ありがとう。いつも楽しみにしてるよ」


 父は身支度を整えて食卓に着き、卵焼きを一口食べた。


 私も一口。


「……」


 正直、味は美味しくない。


「ごめん、次はもっと美味く作るよ」


「そんなことない。世界一美味いよ」


「そんなお世辞……」


「綺鴉羅が、僕のことを思って作ってくれた料理だからな」


「……!」


「お父さんのために、時間をかけて、作ってくれた料理だろう? どんなものだろうと、美味いよ」


 父と一緒に、ご飯を食べる。


 この時間が、大好きだった。


 食事が終わって、2人で茶を啜る。


「お仕事はどうだった?」


「大変だよ。大天狗様たちは次期天狗長が誰を継ぐかで揉めに揉めている。警護の私に出る幕はないが、それでも毎日いざこざを目にしていると、気が滅入るよ」


「そっか……」


 天狗長様が死んで、大天狗族は大忙しらしい。


 派閥ができて、毎日毎日言い争っているようだ。


 私たちは、大天狗様に仕えるだけだから、どの方が天狗長様になっても変わらない。


「でもな、大天狗様たちの様子よりも、さらに気になることがあるんだ」


「気になること?」


「あぁ、最近、白狼天狗達の様子がおかしい」


「白狼天狗たちが……?」


「あぁ。僕達と白狼天狗は、大天狗様たちを守る守護の役割を授かっているが、天狗長様が死んでから、護衛に来なくなった。それに、夜中に集まってコソコソと密会をしているらしい。武器も集めてるという噂だ」


「……何をしているんだ? こんな大事な時に」


「わからない。だが、僕は妙な胸騒ぎがするんだ」


 父は、少し湯呑みを強く握った。


「なにか、我々に対して恨みを晴らすために、良からぬことを企んでやしないかと、近衛兵の間でも噂になっているんだ」


 昔、私が生まれる前、白狼天狗は天狗族の中では新参者で、我々烏天狗から迫害を受けていたことがあった。


「そんな、もう、500年も前のことだろう。今はもう、天狗長様のおかげでそんなことをする輩はいない」


「あぁ。でも、白狼天狗にとっては、500年経っても、忘れられないことなんだよ」


「500年前なんて、私は産まれてないし、父さんだって子どもの時だろう。若い者たちは、ほとんど関係ないじゃないか」


「ああ……でも、若者もそう教え込まれてきたからね。今でも……消えない恨みの炎を宿している者たちもいるんだ」


「……」


 そう言われても、平和に過ごし、暮らしてきた私には、わからない感情だった。


「綺鴉羅」


 父は、真剣な顔をして私に呼びかけた。


「最悪の場合、もしかしたら、白狼天狗たちと戦争になるかもしれない」


「……」


「そうなったら、女や子どもは遠くの町へ逃がそうという話が出ている。お前も……」


「私も、戦う」


 父さんの言葉を遮るように、私は言った。

 父さんは、私の言葉にあまり驚いていなかった。


「わかってるよ。でも、私は父さんの娘だ。父さんも、村のみんなも、守りたい」


「綺鴉羅……」


「大丈夫だ。剣の訓練だってしてる。私も、戦える」


 父さんは目を伏せた。

 少しの間、考える。


「綺鴉羅」


 私に向かって両手の掌を見せた。


「この手は、『何色に見える?』」


「な、何色って……黒だけど……」


 烏天狗の肌は黒い。何故、こんな当たり前のことを言っているのか疑問に思った。

 しかし、父は続けた。


「僕にはね、この手が『赤色』に見えるんだよ」


「……え?」


「殺してきた者たちの血で、真っ赤にね」


 そう言った父の目は、どこまでも優しく、そして、少し辛そうだった。


「嘘じゃないよ? 本当に赤色なんだ。僕は、何百年も昔から兵隊として、天狗族の敵や犯罪者たちを殺してきた」


 父の言っていることは、その表情からも嘘ではないとよくわかった。

 辛くとも、前を向いて私に語りかけていた。


「彼らは、いまだに僕の耳元で囁いてくるんだ。『呪ってやる』『地獄で焼かれろ』って。わかるかな。他者を殺した者の一生は、そうなってしまうんだ。相手の命の重さで押し潰されそうな……一生にね」


 父は、私に問いかけた。


「お前に、その覚悟はあるかい?」


「……」


 私は、答えられなかった。

 あまりに、問いかける父の気迫が凄かったからだ。

 娘に対してじゃなくて、戦士に問いかけるような、そんな表情。


 答えられないでいると、父は少し笑った。


「まぁ、もし覚悟があったとしても、連れてはいけないけどな」


「……どうして?」


「娘であるお前に、そんな血塗られた人生を歩んでほしくはないからだ」


「……!」


「せっかく、綺鴉羅は平和な時代に産まれてきたんだ。僕達が作り上げた、平和な時代に……殺しとか、そんなものとは無縁な、光り輝いた一生を送ってほしい」


 そう言って、父は微笑んだ。


 後悔なんてないような、そんな笑顔。


「……父さんは……」


「うん?」


「父さんは……辛くはないのか?」


「僕は……ん?」


 父さんは、答えてくれなかった。


 立ち上がって、窓の外を見る。


「逃げなさい、綺鴉羅」


「へ?」


 その次の瞬間、遠くの方で、爆発の音が聞こえた。


『ドガアアアアアアアアアアアアン!!!』


「……!」


 父は剣を取り、家の外へ。


 私も父に続く。


 遠くの方で煙が見えた。


『一本の、黒い煙』


「な、なに……?」


 遠くの方から、烏天狗の近衛兵、父さんの仲間が急いで近づいてきた。


「白狼天狗の奴らが、奇襲を仕掛けてきやがった!!」


「……! そうか……」


 こんなに早いとは、思っていなかったと、父は呟いた。


 そして、近くにいた私の腕を引っ張り


 私を、抱きしめた。


「と、父さん……?」


 嫌な予感が、全身を駆け巡る。


「綺鴉羅、ここを東にまっすぐ行くと、少し大きめの町にたどり着く」


 嫌だ。


「何日間かかかるかもしれないが、お前の翼なら、誰よりも早く着けるだろう」


 嫌だ。嫌だ。


「ま、まって、待って父さ……」


「大丈夫」


 私を安心させるように、父は精一杯、笑った」


「お前の自慢の父さんが、死ぬわけないだろう?」


 遠くから、白狼天狗たちが空を飛んでくるのが見えた。


「この窮地を切り抜けたら、すぐに私も追う」


 私は、動けなかった。


 動きたく、なかった。


「行きなさいッ!!!!!」


「……ッ!」


 父の怒号に、反射的に身体が動く。


 羽根を広げて、私は飛び立った。






 愛してる







 そんな言葉が、背後から聞こえた気がした。


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